Q. 今の会社で頑張るか、新しい道を模索するか
●相談者からのお悩み
現在、民間企業で研究職として勤務している会社員です。
2年前に大学院で修士号を取得し、昔からの夢であった研究を仕事にすることができました。しかし、実際に2年間働いてみると、自分の仕事が世間に与えるインパクトの小ささや、今の会社で将来どのようなキャリアを描くのかがなんとなく想像できるようになってしまい、理想と現実のギャップに悩むことが日々多くなりました。
現在は中元さんと同じ27歳で、大学での博士号の取得や他企業への転職を考えると、挑戦できる年齢としては今が最後なんじゃないかと考えるようになりました。
中元さんは、アイドルを卒業後、カウンセラーという別の道に進みながらも大学に通われた経歴をお持ちで、私が進みたい道の一つを体現しているように感じました。
今の企業で頑張ってみるか、新たな道を模索するかを決めるのは最終的には自分だとわかっているのですが、今後を決める上でのアドバイスや、中元さんの経験談などあれば教えていただけると嬉しいです。(めもつん・27歳・男性)
●中元さんからのアドバイス
挑戦するのに年齢は関係ないと世間では言われます。実際、大器晩成型の人のサクセスストーリーは心打たれますし、「自分もまだまだこれからだ!」と希望をもらえます。挑戦する人は何歳だろうと関係なくすごいです。
でも、現実的には、業界の定める期限(〇歳以降は転職が厳しくなるなど)や、体力の衰え、同世代が挑戦を控えて安定志向にシフトしていく状況など、年齢を重ねるほど新たな挑戦を断念する後ろ向きな理由が増えていきます。若いうちはまず何者かにならなければいけないため、受験も就職活動も頑張りますが、再度状況を変えようとすると「これまでに築いてきたスキルでそれなりに生きていけちゃうもんな」と迷うことでしょう。
私の話を少ししてみます。アイドルには、業界の定める上限年齢が明確にあるわけではないですが、会社員の定年よりはるかに短いことははじめから頭にありました。セカンドキャリアとして芸能の道を選択するのであれば、一般的に「同業他社への転職」的な意味合いになります。私は歌やダンス、お芝居、バラエティー番組への出演など、当時いた業界での仕事を継続したい気持ちはありませんでした。そうなると残るは「異業種への転職」「退職」です。ちょうどカウンセリングに興味を持ったため、異業種への転職をして今に至ります。
同業他社への転職と違って、未経験採用みたいなものなので、前職でのスキルは通用しない面も多くありましたが、結果的には今のキャリアに満足しています。前職に期限があることが頭にあったからできた選択だと思います。アイドルで定年までご飯が食べられる世界だったら、あえてカウンセラーに転職するか否かは迷ったのかな。どうだろう。
社会人になってから大学進学をし、卒業したことを評価していただくのはとてもありがたいです。一方で、きっとあのタイミングで進学していなかったら後々自分が後悔しそうだったので、キャリアのためというより「自分のため」の選択でした。18歳の時に大学進学しなかったことがずっと引っかかっていて、自分自身を納得させたかった。私、頑固なところがあって、世の中の誰よりも私自身を納得させるのが一番難しいんです。
めもつんさんのお話に戻ります。不確定な要素がたくさんありますね。挑戦した方が絶対に環境が良くなる保証はないし。今のまま環境を変えないなら、会社の先輩を見ていると自分の未来の姿が想像できてしまう。自分より5年先輩が生き生きした顔で仕事をしているか。私生活は充実していそうか。そんな生活を自分が5年後していたいかどうか。
世の中に大きな影響を与える仕事、大きいとは言えない仕事、本当に立場によって様々ですよね。カウンセリングをしていると、「お客様から直接ありがとうって言ってもらえる職業に転職したい」とか「インフラ系の仕事をしていて、皆さんの生活を大きく支えているはずなのに、誰も自分たちの存在を意識していない」などといったお話を聞きます。
会社に入る前に抱いていた理想と現実との違い。昔からの夢だった職業に就けて幸せなのかと思いきや、夢だったからこそ実際に現場で生じるガッカリ感が大きいこともあります。
確かなのは、「挑戦しなかった後悔」は消えるだろうな、ということです。先ほど書いた通り、人生ある程度の分岐点を進んだら、もう回収できなくなってしまうイベントがたくさんあります。私は今からアイドルにはなれないし、不可能ではないにしても今の気力では、医師とか宇宙飛行士とかにはなれない。今27歳ですが、同世代の間では結婚や出産について、それに伴う働き方の変化について話題に上がります。
最終的に決めるのはめもつんさんご自身。おっしゃる通りです。考える上で材料が一つでも多い方が良いなら、私個人の経験から「人生の責任は自分自身にある」という第三者の意見も参考までにお伝えしてみます。アイドルを辞めたタイミングも、心理カウンセラーへの道に進むと決めたのも、全部私の意思です。誰も責任を取ってくれません。だからこそ好き勝手に生きていけて、今のところ失敗はあっても後悔はありません。
中元日芽香(なかもと・ひめか)
1996年4月13日生まれ。広島県出身。早稲田大学人間科学部eスクール卒業。2011年から6年間、アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活動したのち、2017年にグループを卒業。認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設、心理カウンセラーとしての道を歩み始める。2021年、初の書き下ろしエッセイ『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』を刊行。現在はオンラインでのカウンセリングをメインに、メディア出演、執筆など多方面で活動中。
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2023.12.20(水)
文=中元日芽香
写真=榎本麻美
スタイリング=岡安幸代
ヘアメイク=宇藤梨沙