芸人の中で唯一承認欲求を持たない男とは
――承認欲求や嫉妬という感情が女性たちの間で渦巻いているシーンがありました。ジャンボさんはご自身の中に承認欲求を感じることはありますか?
めちゃくちゃありましたよ! 今でこそテレビに出られたりYouTubeも評価してもらえたりして承認欲求がちょっと満たされていますけど、おもしろ荘(日本テレビ系『ぐるぐるナインティナイン』の人気企画「おもしろ荘へいらっしゃい!」)で優勝したのに、第7世代ブームに追い越されていったときの嫉妬は半端じゃなかったですね。テレビが大好きなのに全然見なかった時期もありましたし、第7世代でいっぱいの『アメトーーク』は絶対見ませんでした。今田さん東野さんの番組では第7世代の悪口を言ったりしてました(笑)。
承認欲求って全員持ってるはずなんですよ、どんなに売れてる人からでも感じるじゃないですか。でも、芸人の中で俺が知ってる限り唯一承認欲求を持たない人がいて。空気階段のもぐらさんなんですけど。マジでゼロなんです。自分たちのトークライブにもぐらさんが来てくれたときに聞いたら、「2つある。まずは、余裕がない。もう一つは、自分が1番下だから。俺よりクズはいないし、俺が1番下の人間だと思ってるから」って。逆にめちゃくちゃかっこよくて。みんな余裕があるからもっと欲しくなるし、みんな自分のことを評価しすぎているからもっと認めてほしいってことですもんね。俺みたいなもんが…って思ってたら、承認欲求を持たなくて済む。あんなヒゲおじさんに、真理突かれると思ってなかったですよ(笑)。
――いつ頃から解放されました?
もぐらさんの話は2年前だから、そのくらいですね。俺自身が変われたというよりは、自分の中の承認欲求がだんだんと満たされてきているのもあるかもしれないです。仲間や先輩から自分たちのネタを評価してもらえたとか、ライブで頼りにしてもらえたとか。周りのおかげですね、マジで。あとはこの小説がもうちょっと売れてほしい欲求くらいです。読み直したら面白かったんでね、けっこう。
――あはは!(笑) 本当に素晴らしい小説でした。先輩といえば、主要キャラクターの中の田中の先輩「ラフランドのぴょん」のモデルは、やはり親交の深いコットン(元ラフレクラン)のきょんさんですか?
そうですね。言葉のリズム感やしゃべる内容は、めっちゃきょんさんです。あれはずっと一緒にいる俺にしか書けないと思います。田中とぴょんさんの会話は、俺ときょんさんのふだんの会話みたいなものなんですよ。
ぴょんさんは最初、魅力的なキャラクターに書けなかったのですが、俺が1番お世話になっているきょんさんを写してみたら一気に動き出して。“キャラが生きたら物語が進んでいく”という、劇画村塾の小池一夫さんのモットーを思い出しましたね。結果、すごく素敵な人に仕上がったので芸人仲間からは逆にそこが不評でした(笑)。ニューヨークさんには「ぴょんのこと、かっこよくしすぎだろ!」って言われましたし。ぴょんさん本人は、「かっこよくしてくれてありがとな!」って(笑)。
2023.12.15(金)
文=藤井そのこ
撮影=平松市聖