この記事の連載

『涼宮ハルヒの憂鬱』(朝比奈みくる役)などで知られる声優の後藤邑子さん。国指定の難病を抱えながら活動を続け、この9月には初めての著書を刊行、11月には京都アニメーション主催の音楽フェスにも出演しました。

 自身のキャリアと闘病を振り返った著書『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も』より、一部を抜粋して転載します。(全2回の前篇。後篇を読む


「邑ちゃん、落ちついて聞いてね。ちいちゃんが亡くなったの」

 代アニを卒業後、洋画の吹き替えをメインに活動している老舗プロダクションの養成所に入りました。しかし、それから間もない5月、突然、3歳年下の妹が亡くなったのです。

 妹は、自分で口にしたことはたいがい実現させます。地元の大学を薦められても、自分の希望を譲らず、第一志望の関西の大学に合格し、入学しました。そういったところも私たち姉妹は似ていたのかもしれません。3月に帰省した時に、「合格おめでとう」と言ったばかりです。

 妹は私と違って持病はなく、健康でした。しかし、寮の部屋で寝ている間に心不全を起こし、朝には息をしていなかったそうです。健康な人にも起こる可能性があることだと、医師に説明されました。

 両親が車で引き取りにいくと言いましたが、父の従兄弟が「おれが運転する」と、両親を乗せて、関西まで妹を迎えに運転してくれました。その日は親族じゅう、誰も私に連絡する余裕がなかったのでしょう。私に電話をくれたのは遠い親戚のおばさんでした。

「邑ちゃん、落ちついて聞いてね。ちいちゃんが亡くなったの」

 文章にするとわかるのに、なじみがなくなっていた尾張弁の、真ん中におかれるアクセントに勘違いして、「いなくなった? どこに?」と返しました。「違うの、死んじゃったの!」とおばさんが叫びました。「いまお父さんとお母さんが、とっさんの運転で大学に向かっとって……」

 その後はもう何を話されたのか覚えていません。取るものもとりあえず実家に急ぎました。

2023.12.02(土)
著者=後藤邑子