今年の旧正月に香港で公開され、香港映画歴代興収No.1に輝いた『毒舌弁護人~正義への戦い~』で主演を務めたマネーメイキングスター、ダヨ・ウォンが2023年11月2日~5日に開催された「香港映画祭2023 Making Waves - Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」で公式初来日。

 スタンダップ・コメディ出身という経歴を持つ国民的俳優が、不遇の時代など、自身の波乱なキャリアを振り返るほか、香港映画界の今後について語ってくれました。


歴代興収No.1は、絶妙なタイミングのおかげ

――ダヨ・ウォンさん主演作『毒舌弁護人~正義への戦い~』が香港映画歴代興収No.1なった理由は何だと思いますか?

 1つ目はコロナ禍によって、この数年間あまり外出できなかったこと。香港人にとって、旧正月に家族揃って、映画館に行くことは古くからの習慣ですから、それができないことで、ストレスが溜まっていたと思うんですよ。その思いが爆発して、何度も観てくれたんじゃないかと!

 2つ目は、この映画が面白いこと! ジャック・ン監督は3つ目の理由として、「ダヨ・ウォンの人気」と言っていますが、私は過去に香港映画界の興収の“毒薬(絶対にヒットしない俳優)”と言われた男ですから、その言葉は信じていません(笑)。ただ、絶妙なタイミングで、天と地と人が揃ったというか、スタンダップ・コメディ出身の私が毒舌弁護人というピッタリの役に出会えたということは強く感じています。

――この映画は、92年の年間興収No.1ヒットとなったチャウ・シンチー主演の時代劇『チャウ・シンチーの熱血弁護士』を、現代の香港喜劇王といえるダヨさんによってアップデートしたという解釈もできます。

 法律を扱った作品は近年あまりなかったと思いますが、「ある事件に直面したとき、人はどのように正義を求めるのか?」というテーマは、どちらの作品にも共通していると思います。観客はそういうテーマを扱った作品を観ることで、スッキリ気分爽快になりたいので、どちらもヒットしたのではないでしょうか。

 ただ、今の時代、観客の目は肥えているので、単なる娯楽作品だと満足できないと思うんです。香港の「鶏スープ」は、とても潤いと栄養を与えてくれるものですが、『毒舌弁護人』は現代人の病んだ心を癒してくれる「鶏スープ」のような存在になったようにも思えます。

――シンチ―のほか、トニー・レオンやアンディ・ラウなど、ダヨさんと同世代の俳優といえば、ほとんどがテレビ局(TVB)の俳優養成所の出身という時代に、なぜスタンダップ・コメディという道を歩まれたのですか?

 私はカナダに留学していたこともあり、彼らよりちょっとキャリアが遅く、当時TVBが俳優養成所の人員を募集していなかったこともあり、「香港話劇團」という劇団に入りました。

 その後、ラジオ番組のDJや朝のワイドショーの司会などの仕事もしましたが、なかなか俳優としてのチャンスには恵まれず、それで香港にはあまりなかったスタンダップ・コメディを始めることで、華やかな芸能界から身を引こうと思っていました。でも、それが予期せぬことに大成功してしまったんです。

2023.11.15(水)
文=くれい響
撮影=山元茂樹