今後の香港映画は扱うテーマや脚本作りがカギに
――2000年代に入って、TVBで放送された主演ドラマ「男親女愛」(00年・未公開)が平均視聴率35%を記録。社会現象になるほか、ほかの主演ドラマでもお茶の間の人気を博します。ただ、主演映画がまったくヒットに恵まれないという現実に直面されます。
「男親女愛」が当たったことで、映画監督の話が来るようになり、自分で脚本も書きました。そうして完成させた『一蚊雞保鑣/Fighting to Survive』(02年・日本未公開)は一般大衆向けのコメディを狙ったのですが、観客の反応がどうもおかしい。聞けば、「いろんな要素が入りすぎて、ごちゃごちゃしてる」という意見ばかりで、興収も『沙甸魚殺人事件』を下回る大・大惨敗でした(笑)。
私はごちゃごちゃした映画が作りたかったので、完全にこちらがやりたいことと観客が観たいものの差があったんですね。香港映画界は本当にシビアで、そこから約20年、監督の話は一切来ませんでしたし、さっきも言ったように“毒薬”と呼ばれる存在になりました。
――TVドラマでは大人気なのに、映画は一切当たらない“毒薬”と言われた俳優といえば、過去にも『男たちの挽歌』(86年)以前のチョウ・ユンファがいます。そんな“毒薬”だったダヨさんも、18年に『007』ジェームズ・ボンドのパロディを演じられた『棟篤特工/ Agent Mr Chan』(日本未公開)で、ついに年間興収No.1メガヒットを飛ばします。
チョウ・ユンファが“毒薬”と呼ばれていた時代はわずか5年程度ですが、私は20年ですから、ずっと耐えるしかありませんでしたし、映画業界にいる友人は私と会うとき、必ず気まずい雰囲気になって、映画の話題を避けていたようにも思います(笑)。
私はそんな現実を受け止め、「自分にはスタンダップ・コメディという、誰にもできない武器があるじゃないか!」と開き直っていました。『棟篤特工』に関しても、いろんなタイミングが良かったんだと思います。「映画も観てみたい」と思ったTVドラマやスタンダップ・コメディでの私が好きな人が望んでいたものと、ごちゃごちゃしていない一般大衆向けのコメディが合致したとか……。
――それ以来、主演映画がすべてヒットするマネーメイキングスターへと昇りつめたダヨさんですが、今後の香港映画はどのようになっていくと思われますか?
これまで香港映画が成功した理由のひとつは、これまで資本主義に基づき、儲かりさえすれば、どんな映画でも作っていい状況だったからと思うんです。観る人さえいれば、映画のテーマが高貴なものでも、俗っぽいものでも、娯楽性が強ければ、何でもよかった。でも、中国大陸という大きな市場に目を向けるとなると、儲かること以上に、扱うテーマをいろいろ考えなければいけないし、脚本作りがとても大変になると思います。
ちなみに、私がいちばん好きな香港映画は、イム・ホー監督の『ホームカミング』(84年)です。この映画で描かれている時間の流れ方が、とても印象に残っているんです。今後は『毒舌弁護人』での成功を参考にしつつ、これからも時代のニーズに合わせた「鶏スープ」のような映画をお客さんに提供していきたいですね。
ダヨ・ウォン(黄子華)
1960年9月5日生まれ。香港生まれ。90年にスタンダップ・コメディアンとしてのキャリアを始め、『マジック・タッチ』(91年)で映画界に進出。これまで50本を超える作品に出演するほか、平均視聴率35%を記録した「男親女愛」(00年・未公開)などのTVドラマでも活躍。22年に興収7000万HKドルを突破した『6人の食卓』に続く、主演作『毒舌弁護人~正義への戦い~』(23年)では、香港映画史上初の1億HKドル突破のメガヒットを記録した文字通りの国民的俳優で、マネーメイキングスター。
映画『毒舌弁護人~正義への戦い~』
現在公開中
治安判事ラム・リョンソイ(ダヨ・ウォン)は、新しい上司の気分を害したことで職を失ってしまうが、友人の勧めもあり、50代にして新たに法廷弁護士として道を歩み始める。そんなラムが初めて弁護を担当したのは、とても複雑に見えない単純な児童虐待事件。だが、その事件が思いもよらない展開をみせ、ラムとパートナーの若き女性法廷弁護士のフォン・カークワンは、大きな権力闘争に巻き込まれていく。
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2023.11.15(水)
文=くれい響
撮影=山元茂樹