「コーヒーを買うにも許可が必要」裁判で明らかになった生活
父親陣営を後見人からはずすことを求める裁判がはじまると、衝撃の事実が明かされていった。「逆らったら子どもたちの親権がなくなる」と脅されて休む暇なくライブを課せられていたブリトニーは、コーヒーの購入や邸宅内のゴルフカート移動すら許可を求めなければいけない生活を送っていたのだという。
避妊も強いられていたため、本人が望む妊娠すら許されなかったと訴えられている。証言を行った彼女は、切実な願いを訴えた。「人生をとりもどしたいだけなんです。私には生きる資格があるはずです」。
こうして、制度の悪用が人権問題として知れわたり、政治家たちが動いた結果、カリフォルニア州で後見人による虐待などを防ぐ「フリー・ブリトニー法案」が成立した。
父親の支配から解放されたブリトニーだったが、状況に加担していた母や妹とも絶縁状態で、息子たちとすら距離があいてしまっていると言われている。大先輩たるエルトン・ジョンの協力によりコラボ曲は出したものの、音楽活動に戻る気もないようだ。自伝では、その悲痛な理由が明かされている。
「(後見人制度下で課せられた)ステージでは、人間ではなく商品でした。いつも本能的に音楽を感じていたのに、その情熱すら盗まれてしまったのです」
「舞台では激しい姿であれ、それ以外の時はロボットであれと求められつづけました。耽溺、冒険といった、人を人たらしめる秘密が奪われたようなものでした。父たちは、私から人生の特別なものを奪って、すべてを麻痺させようとした。私のアーティストとしての創造性は殺されてしまった」
あまりの悲劇を経験した彼女の決意に、残念がるファンはあまりいない。みんなが彼女の安寧を願っているのだ。他方で重要なのは、ブリトニーの音楽が今もなお愛されていることだ。独特な歌声と激しいダンス、完璧主義からなるリズム感覚、そして圧倒的なカリスマ性によって、彼女はポップミュージックを永遠に変えたのだ。歌手ブリトニー・スピアーズのレガシーは、日本でも語り継がれていくことだろう。
いま彼女が探求しているのは、ひとりの人間として自由を楽しむことだという。家族やメディアのみならず、世間の人々からも大きく傷つけられてきたブリトニーは、40代になってようやく、自分の人生をすごそうとしている。
2023/10/28 11:36…記事中の一部表現を修正しました。
2023.10.27(金)
文=辰巳JUNK