それは本来、親とか先生が言うことだったんだけれど、今の大人はそういうことをあまり言わない。お節介だと言われてしまうから「本人の自由」というきれいな言葉でごまかして「やりたいことをやればいいじゃない」なんてことを言う。今の大人の言っていることは、物分かりが良すぎるんです。
――そんな役割も精神科の医師に求められているんですか。時代で社会も人も変わって、精神科に求められるものも、同時にアップデートされているんですね。
益田 これからも、時代が変われば精神科も変わっていくでしょうね。
「歪みの10を1に」できれば生きやすくなる
――精神科の再診は「5分診療」と短い時間になるのが一般的だということも意外でした。
益田 決してそれでいい、十分だという訳ではなく、医師が足りていないのでやむを得ない現状といったところですね。
――一方で、心理士でも対応可能な「カウンセリング」だと45分とか、比較的長い時間をとって話を聞いてもらえると。
益田 時間的にはそうですが、カウンセリングでは患者さんは「ただ一方的に話をして聞いてもらう」のではなく、その時間内で「認知療法」が行われたりします。
例えば「1を10にしている」ような認知の歪みとか、世界観の歪みがある患者さんが多いので、それをカウンセリングの会話の中で軌道修正していくんです。「歪みの10を1に」できたとすれば、ストレスや疲労の溜まり方が変わって、ずっと生きやすくなります。
――そうやって不安に囚われた状態から解放されていけるんですね。
益田 はい。こういう精神医療の知識に、多くの方が触れてもらえると幸いです。
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続く第2回、第3回では文春オンラインに掲載されてきたさまざまな事件について、精神科医の目線で益田先生に解説していただきます。
益田 裕介 (ますだ・ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営し、登録者数は48万人を超える。患者同士がオンライン上で会話や相談ができるオンライン自助会を主催・運営するほか、精神科領域のYouTuberを集めた勉強会なども行っている。著書に『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)、『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)など。
青山ゆずこ(あおやま・ゆずこ)
フリーライター、まんが家、原作者。おもに週刊誌や月刊誌で活動。「マジメなことは面白く、面白いものはマジメに」がモットー。2011年からおよそ7年間“夫婦そろって認知症”となった祖父母との同居を通してヤング・若者ケアラーに。著書に『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)など。X@yuzubird
〈「極端なジャニーズファンも行き過ぎてますね」精神科医が語る、性被害を受けた人の「深い心の傷」と「ジャニーズ擁護」の罪〉へ続く
2023.10.24(火)
文=市川はるひ