ラストシーン、眞人はポケットの中をちらっと見る。おそらくそこにはイメージの世界から持ち帰った石が入っているのだろう。そう、眞人は母と決別なんてしない。失われた母を、そのまま連れて、成長する。母への思慕を消さないまま、眞人は生きることに決める。
それはまさに、飛行機が血塗られた夢であると知りながらも、その美しさに魅せられた罪を負って生きることを決めたのと同様だ。父を拒絶し、母を求める夢を描き続ける人生を、宮崎は選ぶ。正しさばかりを求めるインコたちとは対照的に。
それが罪悪感を伴うものであったとしても、イデオロギーとしては否定されるべきものであることを知りながらも、宮崎は、美しい夢を造り続けるのだ。
『君たちはどう生きるか』は、その覚悟を描いた物語だった。
(※)宮崎駿監督の崎はたつさき
(※1)鈴木敏夫は宮崎駿がミリタリーオタクであることについて以下のように言及する。
「昔から宮さんは、何かというといつも戦闘機や戦車の絵を描いていました。アトリエの本棚には戦争にまつわる本や資料が大量に並んでいて、兵器に関する知識は専門家も顔負けです。その一方で、思想的には徹底した平和主義者で、若い頃からデモに参加して『戦争反対!』と叫んできた。大矛盾ですよね」(鈴木敏夫『天才の思考』文春新書、2019年)
(※2)詳しくは拙著『女の子の謎を解く』(笠間書院、2021年)で論じている。
2023.08.15(火)
文=三宅香帆