スタジオジブリ社長の鈴木敏夫氏による「鈴木敏夫はどう生きるか」を一部転載します(文藝春秋2023年8月号)。

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事前情報ゼロの理由

 新谷 いよいよ宮﨑駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』の公開日が7月14日に迫りました。ただこの映画について、現時点で公開されている情報はタイトルとビジュアルポスター1枚だけです。これまでのジブリ映画といえば、公開前にメディアで盛り上げるのが常だったと思うんですが、なぜ今回は事前情報がほぼゼロなんですか?

 鈴木 それをやめたからです。今まではジブリという会社を運営しなきゃいけなかったから、たくさん宣伝して、なるべく多くのお客さんに見てほしいと考えていたんですよね。で、これまでいろいろやってきて、そろそろいいかな、と。

 新谷 本当にそれだけですか?

 鈴木 だって決まりきった宣伝やPR活動を毎回毎回やるって、やっぱり嫌ですよ。だから今回は少し違うこと、「何もしない」をやる、それが結果として映画界にとってもプラスになるんじゃないかな、とも思っているんです。

 新谷 確かにみんな今、この映画の情報に飢えてますよね。

 鈴木 そう。「なんで?」ってなるでしょう。今の世の中って明らかに情報過多で、事前情報を確認するために映画を見にいってるようなところもありますよね。

 新谷 ちなみにあの鷹みたいなビジュアルは何なんですか?

 鈴木 言わないですよ(笑)。ただ僕は『風の谷のナウシカ』からずっと映画を作ってきて、今回初めて宮﨑駿に褒められましたね。「鈴木さん、このポスターはすごいよ。今までで一番だ」って。その宮さん(宮﨑駿)の反応が今回の手法のヒントになりました。

 新谷 吉野源三郎さんの同名の作品とは関係があるんですか?

 鈴木 何の関係もないです。

 新谷 えっ、ないんですか?

 鈴木 ただ宮さんは中学生のときに古本屋で見つけた吉野さんの『君たちはどう生きるか』を読んで涙したんですよ。それがどこかに残っていたんでしょうね。2016年の7月1日——日付まで覚えていますが——宮さんが僕のところに「次の作品、『君たちはどう生きるか』ってどうかな」と、そのタイトルだけ持ち出してきたんです。

2023.08.03(木)
文=鈴木敏夫