新谷 どう思われたんですか?
鈴木 「これはさすがに駄目だ。宮さんも年をとったな」って思ったんです(笑)。だってこんな堅苦しいタイトル、ないじゃないですか。
新谷 かなり哲学的ですよね。
鈴木 ただあれから7年が経ち今になって、この問いかけに時代の空気が近付いてきた感じもある。
新谷 当時はまだコロナもウクライナ戦争もない時代ですからね。
「みっともないのはわかってる」
鈴木 そこはやっぱり宮﨑駿はすごいな、と思いました。で、タイトルと一緒に宮さんは文章を書いてきたんです。見るといきなり「みっともないことはわかってる」って。だって、その3年前に引退会見をやってるんですからね。
新谷 かなり盛大な引退会見でしたよね。
鈴木 それで僕は「往年の名監督が『これが最後だ』と踏ん張った作品で、面白かったやつが1本でもありますか?」と言ったんです。それには答えないんですね。ただ「作らせて」「みっともないのはわかってる」を繰り返すだけ。それで最後に——これが罠なんですが——「(最初の)20分だけ絵コンテを描く」と言ったんです。「それを見て判断してくれ。駄目だったら言って。俺、すぐやめるから」って。
新谷 さすがですね。
鈴木 ずるいんですよ(笑)。結局20分の絵コンテに半年かかって、持ってきたのが12月末の金曜日。金曜日というのがミソなんです。つまり週末に読んで、週明けに答えがほしいという意思が込められている。
でも土曜日は読まなかった。読みたくないんですよ。仕方なく日曜の夜に読んだら、面白い。錯覚かなと思って、日付が変ってからもう1回読んだけど、やっぱり面白い。さてこれは困ったぞ、と。
新谷 でも「世界の宮﨑駿」にノーという手はないですよね。
鈴木 いや、ノーを言おうと思ったんです。だってたった20分だし、その後がつまらないかもしれないし、82歳という高齢のリスクもある。だから月曜の朝、自分の車でアトリエに向かいながら、「宮さん、申し訳ないけど面白くない」って断る練習をしたんですよ。アトリエに着いて、さあ言うぞとドアを開けたら、宮さんが待ち構えていて、いきなり「コーヒー飲む?」ですよ。
2023.08.03(木)
文=鈴木敏夫