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 映画化もされたベストセラー『事故物件怪談 恐い間取り』から始まった事故物件住みます芸人こと松原タニシ(41)が書いた異界めぐりの本が遂に6冊目を数えた。最新著書は『恐い食べ物』(二見書房)。自らの足で蒐集したオムライス、ピザ、寿司、ラーメン、ケーキ、チョコレートなど誰もが大好きな食べ物にまつわる恐怖のエピソードを紹介してゆく。

 人は生きている以上、「食べる」からは逃れられない。そして、食べる行為とは、多くの死を自分の肉体で受け止める儀式でもある。この本は、時に命の危険にさらされながら異界と胃界を行き来したタニシによる、言わば恐怖のミシュランガイドだ。

「身近な食べ物に潜む恐さを描いた 『恐い食べ物』から厳選恐怖【4選】」を読む


「16軒目に借りた事故物件は、特別な家でした」

――松原タニシさんは「事故物件住みます芸人」として知られ、まるで流れ者のように事故物件を転々としておられますね。事故物件以外は住まないとお決めになっているのですか。

 いやぁ、事故物件に住まなきゃならない使命は特にないんですけれど、「事故物件に住んでいない期間がもったいない」と感じてしまうんです。「何か起きてほしい」という期待もありますし。

――現在は何軒目の事故物件にお住まいですか。

 今は15軒目の事故物件に住んでいて、サブとして17軒目を借りています。いつもだいたい2軒の事故物件を借りているんです。

 まず“生活の基盤となるメイン事故物件”があって、次いで“別荘みたいなサブ事故物件”があって。どちらも1年ぐらい経ったら飽きて解約し、また別の事故物件を探して……ずっとその繰り返しですね。

――15軒目と17軒目の間に存在した「16軒目」こそが、新刊『恐い食べ物』が生まれる発端となった“いわくつきの家”ですね。読んでいて、もう恐くてコワくて。本を持つ手が震えました。

 「16軒目」は自分にとっても過去に例がない特別な事故物件でしたね。男性が孤独死した一戸建てを「リフォーム前」の状態のまま、1カ月限定で借りることができました。

 死後2年ほど経って遺体が白骨化して発見され、警察の現場検証を終えたばかり、そんなレアな物件でしたね。過去に血痕が残った部屋を借りた経験はあったのですが、お亡くなりになった方の遺留品がほぼすべて残っているケースは初めてです。

――この本には「16軒目」の実際の部屋の写真まで掲載されています。男性がお亡くなりになった黒ずんだ布団も写っていて、「うわぁ」と声が出ました。散らかっているけれども単なるゴミ屋敷とは違う、オカルトめいた雰囲気がありますね。

 亡くなった男性はホラーマニアだったようです。ホラー映画のキャラクターのフィギュア、楳図かずおや伊藤潤二など恐怖漫画の単行本、サソリやムカデの標本、得体のしれない生き物のホルマリン漬け、イタチやトカゲの剥製など不気味なものが1階、2階、階段にびっしりと置かれていました。本物なのかどうなのか、シャレコウベ(人間の頭蓋骨の骨)もたくさんあって、まるで枕元のシャレコウベに看取られるように亡くなっていたそうです。僕と同い年だったらしく、他人とは思えない気がしましたね。

2023.08.08(火)
文=吉村智樹
写真=志水 隆