永井 裏方について書いたのはライター時代にイベントの裏方に回った経験があったのも大きいです。「GQ JAPAN」という雑誌の「GQ MEN OF THE YEAR」というアワードがあって、私は第1回目の仕切りメンバーの一人だったんです。

 当日は裏方らしく黒い服を着て、バタバタ走り回りながらゲストの方を迎えて「〇〇さん来ました。入ります」「このタイミングでライティングが変わるので入ってください」などとやって、それがすごく楽しかったんですね。

 もちろん主役は舞台の上に立っている人たちですが、裏側の人たちも目いっぱい楽しんでいる部分があるなと思いました。それで、舞台の裏方にスポットライトを当てたい気持ちがありました。

ライター時代の経験が「ネタになっています」

――今作には与三郎という殺陣の指南役も登場しますが、ライター時代、殺陣の先生にエクササイズの指導をお願いしたりもされたとか(笑)。

永井 健康雑誌のダイエット企画で、「和の動きのエクササイズを」っていう無茶ぶり企画を自分で立ち上げて、歌舞伎役者さんと殺陣師さんに動きを教えてもらいにいきました。完全に自分の趣味でした(笑)。そういうことが、今回全部ネタになっています。

――若侍が裏方たちに聞いてまわる、つまりインタビュー形式なのもご自身の経験があったからでは。執筆時は、登場人物たちを前に座らせ、レコーダーを回して「はい、喋って」と、まさにインタビューする感覚で書かれたそうですね。

永井 大まかな設定だけ決めて、脳内の架空の人物たちに話を聞いていく感覚でした。それで、予想外の話が出てくればこの話は成功するなと思っていました。実際のインタビューでも、その場の空気をいかに伝えるかを考えるんですが、今回もそれは同じでした。

 

――一人一人の語り口調がそれぞれ違って、それも楽しみました。

永井 私は落語も好きなんです。落語の調子や間合いも入れたら楽しいなと思っていたので、落語に出てくる台詞みたいなものもちょこちょこ入れています。だから、読む人によっては「あの言い回しは落語のあれかな」といった楽しみ方もしてくれるのではないかなと。知らない方でも、台詞として面白く読めるように考えました。

2023.08.02(水)
文=瀧井朝世