「歴史小説ではないぶん、遊ぼうと思っていました」

――中学生の頃から下北沢に行くなど、小劇場のお芝居もお好きだそうですね。今回の小説は、登場人物一人一人にスポットライトを当てていくという、演劇的な要素も感じました。

永井 そうですね。舞台袖に役者が一人出てきてスポットライトが当たって滔々と喋り、その横で再現の芝居が始まって、当人も語りながらすっと芝居の中に入っていくという、小劇場の芝居のイメージがありました。

 この作品は歴史小説ではないぶん、遊ぼうと思っていました。芝居の話がしたいのだから、この小説全体を芝居のように作ってみたかったんです。幕が開いて、「とざい、とーざい」という掛け声で芝居が始まる感覚でした。

 仇討ちについて聞いてまわる若侍は、観客でありインタビュアーです。小劇場では時々、突然客に絡むような演出があるんです。絡まれた観客は「え……」と戸惑って、それを見ている他の観客は面白がる。話し手が若侍に話しかける場面はそのイメージでした。

 読んでくださった役者さんが「よく調べたね」と言ってくださったり、歌舞伎の小道具さんが「面白かった」と言ってくださったので嬉しかったです。

――ちなみに小劇場のお芝居は今でもよく行かれるのですか。

永井 コロナ禍で足を運ぶ機会は減りましたが、よく行っています。最近は世田谷パブリックシアターとか、東京芸術劇場の小劇場や、中野や池袋、下北沢のほうの劇場とか。

ミステリーとしての魅力も

――さて、本作は仇討ちの真相、若侍の正体、彼が話を聞きに来た動機は何かというミステリー要素でも牽引します。永井さんはミステリー小説もお好きだそうですね。

永井 大好きです。小説も好きですし、サスペンス系の映画やドラマもすごく好きです。最初に事件があると、絶対気になるじゃないですか。

 自分が小説を読む時にどういうものに引っ張られて最後まで読み切るのかと考えた時に、やっぱり真実が知りたいとか、犯人が知りたいといった気持ちに引っ張られて、それが心地よかったりするなと思って。

2023.08.02(水)
文=瀧井朝世