男鹿は『となりのトトロ』や『おもひでぽろぽろ』の時も、自然を描く時の参考として多摩丘陵をたびたび観察してきた。その点で『平成狸合戦ぽんぽこ』は日本の里山のある風景を描く総まとめとして取り組まれたといえる。
現実から掛け離れたものを作ってもしょうがない
完成後のインタビューで、高畑は作品の立ち位置について次のように語っている。
僕はこの映画は記録映画だと思っているんですよ。(略)これがもしファンタジーだったとすると、タヌキは当然大きな力を発揮して、見る人は人間であることを忘れて、タヌキに加担することになります。そうするんだったら、タヌキに大きな力を持たせて、人間にも上手に対抗させることにしたでしょうね。しかし、そうすれば、現実から掛け離れたものになってしまうんですね。そんなもの作ってもしようがない。そんな映画を作って、エイエイオーと叫んでみたところで、別にタヌキは保護されることにはならない。いっぺんの楽しみでしかありえないのです。そういう映画じゃなくて、あくまでも現実にタヌキがやったことは、いくら想像力をめぐらせても、せいぜいこのくらいではないかというものを描きたかったのです。タヌキが置かれている現状を抜きにして勝手な夢やまやかしの希望を語る気にはなりません。(『シネ・フロント』1994年7月号、『映画を作りながら考えたことⅡ』所収)
2023.07.29(土)
文=集英社新書編集部