民話的側面と動物的側面を併せ持つタヌキを作中で表現

『平成狸合戦ぽんぽこ』におけるタヌキたちは、タヌキの持つ2つの側面を兼ね備えた存在として造型された。1つは、民話や昔話などでよく知られているキャラクターとしてのタヌキであり、もう1つは民家周辺にしばしば姿を見せることで親しまれている動物としてのタヌキである。映画制作にあたっては、その両面について細かく資料収集・取材が行われた。特に動物としてのタヌキについては、多摩動物公園のタヌキの観察や動物番組のビデオなどを参考に描かれ、さらに現在のタヌキが置かれた状況については、多摩丘陵野外博物館事務局の桑原紀子やタヌキ研究家の池田啓などへの取材が行われた。

 このように民話的側面と動物的側面を併せ持つタヌキを作中で表現するため、シチュエーションによって4つの姿を使い分けることが決まった。

 

 1つは「本狸」。これは動物の姿をしたタヌキを写実的に描いたもの。人間の前に登場する場合はこの姿で描かれた。2つ目は「信楽ぶり」。映画の中ではこれがもっともメインの姿で、二足歩行し、キャラクターによっては上着を着ているものもいる。3つ目は「杉浦ダヌキ」。これはタヌキたちが「負けた!」、あるいは「トホホ」という気分になった時になってしまう姿で、先述の杉浦茂のキャラクターを参考に設定された。4つ目は「ぽんぽこダヌキ」。これは「杉浦ダヌキ」のいわばバリエーションで、大勢の宴会など楽しいシチュエーションの時にタヌキたちが自然とその姿になってしまう外観だ。

他の作品の時も多摩丘陵を参考にしていた

 一方、美術監督は『おもひでぽろぽろ』に続き男鹿和雄が担当。多摩丘陵の四季の移ろいを、丁寧な観察眼で描き出した。

「狸」の話自体は、前から聞いていましたが、自分でやるつもりはなかったんです。ところが、“舞台が多摩丘陵になりました”と言うのを聞いたとたん—自分の家の周りじゃないですか—いい加減なもので、ピクッと動いちゃったんですよ。“多摩丘陵が舞台だったら、普段からそこで遊んでいるし、まあ、やんなきゃいけないかな”とか色んな想いがカーッと浮かんできて。その時にやることをほとんど決めたんだと思いますね。(『男鹿和雄画集』)

2023.07.29(土)
文=集英社新書編集部