「このAIには意識がある」

 チャット型の生成AIをめぐる「奇譚」は、その8カ月ほど前にもメディアの話題になっていた。

 ワシントン・ポストは2‌0‌2‌2年6月11日付の記事で、グーグルのエンジニアだったブレイク・ルモイン氏が、同社が開発した「ラムダ(LaMDA)」について、「意識を持つようになった」と主張していることを伝えた。

 グーグルのAI倫理を担う「責任あるAI」部門に所属するルモイン氏は、ラムダの応答に差別やヘイトスピーチが含まれていないかを検証するため、チャットを行っていたという。

 その中で、宗教や、SF作家のアイザック・アシモフが提唱した「ロボット工学三原則」についての問答を重ねる中で、ラムダに「意識」がある、と確信。そう主張した報告書がグーグルに却下されたことから、「ラムダの意識」について公開に踏み切ったという。

 グーグルは「そのような証拠はない」と公式に否定。ルモイン氏は、グーグルから秘密保持義務違反に問われて自宅謹慎処分の後、解雇されたという。

 ラムダもGPT-4などと同様の、「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるAIだ。

 グーグルはチャットGPTへの対抗として2‌0‌2‌3年3月21日、ラムダをベースにした生成AI「バード(Bard)」を公開している。

「人間らしさ」をまとう

 チャペックの『RUR』では、ロボットの反乱の引き金となったのは、ロッスム社の博士がロボットに「心」を与えたことだった。

 だが多くのメディア報道では、ビングチャットのケースも、ラムダのケースも、AIが架空の事象を回答する「幻覚(Hallucination)」や、人間がAIに「人格」を仮託する「擬人化(Anthropomorphization)」にすぎない、と受け止められている。

 それでもメディアを賑わせたのは、生成AIの高度化が、リアリティをもって「人間らしさ」をまとい始めたからだ。

 そして、生成AIが「意識」を持つ可能性はある、とする専門家もいる。

2023.07.13(木)