『会話の科学』(ニック・エンフィールド/夏目 大訳)
『会話の科学』(ニック・エンフィールド/夏目 大訳)

 文法を中心に考えてきたこれまでの主流言語学が見落としてきた「会話」のシステムに迫って、話題を呼んでいる『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』。「ゴリゴリ」の言語学のサイエンス本であるにもかかわらず、意外にも、話題のChatGPTをはじめとするAIや自然言語処理にかかわる読者の注目も集めているという。ありそうでなかった本書の魅力について、訳者の夏目大さんに聞いた。


「この本は、ひと言で言ってしまえば、これまでの言語学では音声のナマの会話があまり注目されていなかったよ、という話なんですよね。私も大学では英文学科で言語学の授業もあり、ノーム・チョムスキーの生成文法なんかはうろ覚えですが(笑)興味はあったので、面白いなと思いました」

 著者のニック・エンフィールドらは世界中の音声会話データの研究から、「会話の応答時間は平均0.2秒」、「会話中に耐えられる沈黙は最大1秒」、「沈黙が0.5秒を超えると聞き手はネガティブな回答を予測する」といった、意外な事実を明らかにしていく。

「エンフィールドさんがやっているのは、会話分析研究というジャンルなんですね。言語学では傍流というのもそうなんですが、面白いのは他の学問の成果を援用しなければいけないこと。言語学のつもりではなく行われた、動物行動学とか心理学とか、そういう研究のデータが役立つことが多いと。たとえば本書でも、フクロテナガザルの鳴き交わしやボノボの母子のやり取りといったコミュニケーションのデータを人間の会話と比較したりします。

 もちろん、著者が研究しているのは人間の会話そのものなので、収集しているデータの例として、英語圏の電話による会話の録音がたくさん出てくるんです。これが、背景がわからないからものすごく訳しにくい(笑)。訳者としては、そこを開き直るまでが大変でした」

リアルな会話と説明ゼリフ

 会話を文章に直すと、つい理路整然とおしゃべりが進んでいたようにしてしまいがちである(このインタビュー原稿もそうだ)。しかしもちろん電話もそうだが、実際の会話では、人間は口ごもったり「あー」「あ?」「え?」などの言葉を発したり、同じ言葉を繰り返したりしながら高速でやり取りを成り立たせている。
 本書では誰もが無意識に行っている会話のルールが可視化されていく。それを意識すると、世界の見え方が変わってくる、と夏目さんは言う。

2023.07.06(木)
聞き手=翻訳出版編集部