たとえば肯定的な返事をするならやみくもに0.5秒以内にとにかく答える、否定的なことを言うなら延ばしてみる、というアルゴリズムを組めば、絶対合格できるとは言えないにしても、それだけでかなりバレにくくなるんじゃないかな、なんてことを考えました。

 おそらく、ただChatGPTが考えた回答を一定のタイミングで読み上げるだけだと、会話をしている感じは得られない。話しかけると返事をしてくれるおもちゃなんかもありますが、実際まだまだですよね。そこを克服して実際の会話に近づけたいという人にとって、この本は定量的に会話を分析しているというところがいいのかもしれませんね。

 僕がもう一つ連想したのは“ゆっくり解説”で。合成音声で、いろんな分野の解説や検証をする動画なんですが、たとえばそれでローマ史とかイギリス史を語るような番組を聴くと、なぜか生の声より合成音声のほうが聴きやすいんですよね。

 たぶん、ただ客観的な事実だけを勉強したいときに人間の声でしゃべられると、何か主義主張みたいなものがあるんじゃないか、と感じてしまうというか。それこそ会話しているみたいな気持ちになってしまわないほうが向いている場合もあるのかな、と思うんですよ」

人間の本性を知ることができる書

 会話は超高度な認知能力を使った共同作業だということが本書からはよくわかる。そしてそれだけ人間は会話が大好きなのだということも。夏目さんは、「会話をうまくいかせたくなってしまう」人間の性質を知ることの重要性を感じたという。

「この本のオビには“人間の本性がわかる”という趣旨のキャッチをつけてもらいましたけれど、この“ほんしょう”でなく“ほんせい”ですよね、まさに。人間は会話で何か成果をあげることより、何か楽しくスムーズに会話することが面白くなってしまうというどうしようもなさがある、ということがわかる本だなあと。

 あとがきにも書きましたが、本書を読むと、人間は会話を通じて他人とともに生きる生物なんだなということが改めて実感されます。社会性のある動物はけっこうそうなりやすいらしいんですが、サルの毛づくろいとか虫を取ってやるとかの行動で、本来の目的と手段が入れ替わって、毛づくろいそのものが目的化することがある。人間の会話も、会話自体が目的化することがある。

2023.07.06(木)
聞き手=翻訳出版編集部