「たとえば映画やドラマで、説明的なセリフがありますよね。視聴者が知らない情報をいかにうまく演者に説明させるか。それをまったくしないでリアルに話させると、逆にウソっぽくなったりもする。

 僕の大好きな地元横浜ネタで言うと『私立探偵 濱マイク』という作品があって、主人公の決めゼリフは“俺は私立探偵、濱マイク。本名だ。困ったときには、いつでも来なよ”というんです。開始3秒くらいで“俺の名前は濱マイク”みたいなことを言う。そんなしゃべり方する人いませんよね。でも、それが毎回繰り返されると面白い。

 逆説的ですが、リアルな会話の進み方を意識すると、こういう極端な説明ゼリフが、普通の会話では本当はあり得ないしゃべり方だからこそ面白いんだということがわかります。

 あるいは、“沈黙が0.5秒より長くなると、応答者は気が進まないのかなと思う”という事実も、映像作品などで生かされていると思うんです。1秒黙ってしまうと、もうかなり居心地が悪くなってしまうんだけれど、0.7秒なら、何か含むところがあるのかなと思わせることができる、とかね。それは監督や俳優が経験則から演技しているんでしょうが、実はそこにも理屈があったのか、と」

なぜ言語学がAI界隈で話題に?

 そんな人間の「会話という技術」が話題になっているのが、意外なことにいわゆるAI業界なのだという。ChatGPTのブレイクで、AIが自然なテキストで回答できるようになりつつあると一般にも知れ渡ったが、そうした「自然言語処理」技術をさらに音声会話に実装しようとすると、本書が教えてくれる知見が非常に役に立つのだとか。

「これは言われてみればまさにそうで。僕もすぐに、チューリング・テストを連想しました。画面上でテキストの会話を交わしている相手が人間か機械かを判別させるというやつです。ChatGPTはそこに挑んでいる面もあると思いますが、会話版のチューリング・テストをするなら、この本にはまさにそのコツが書いてあるといえますよね。

2023.07.06(木)
聞き手=翻訳出版編集部