小川 言葉で説明しきれないものもあるはずですが、やはり祖父と僕では戦争に対するとらえ方はすごく違うと思いますし、祖父の世代に書かれた戦争小説も明確に今とは毛色が違うと感じます。

 浅田 戦争小説を色々お読みになって勉強しているのかなと思ったんですが、小川さんは戦闘シーンを書くのがうまいですね。アクションを書くのに動きを逐一再現しようとすると、映像にはまったくかなわないので、おかしなことになる。文章表現の限界を知っていないと描けないんです。小川さんの描く戦場はその塩梅が大変上手で、センスの良い作家だと思いました。

 小川 ありがとうございます。『地図と拳』は連載終了後に大幅に手を入れたんですが、戦闘シーンは初稿からほとんど直していない部分です。正直なところ、自分でも「書けた」という感覚がありました。

 浅田 戦闘中に手榴弾の衝撃で聴覚をやられるのを〈空気を丸めて作った弾丸に、両耳を撃ち抜かれたようだった〉と書かれていて、自衛隊にいた経験から言うと、あれは本当にそう。実弾演習の時なんて耳栓してても聴こえなくなったもの。弾が飛んできた時に「ヒュン」て風が来るのもその通りなんだけど、どうして知ってるんですか。何かで読んだ?

 小川 いえ、来るんじゃないかな、みたいな想像です(笑)。僕はサッカーをやっていたんですが、シュートが身体の近くを通ったりすると、すごい風が来るんですよ。その体感を思い出して書いていました。

虚実の“虚”の許容量

 小川 僕は歴史小説を書いた経験が少なかったので、どこまで想像で書いていいか、どこからはやり過ぎなのか、を書きながら見極めていった感じでした。

 読者が小説に没入するためには、登場人物にとって世界がどういう風に見えているのかを示すのが大事ですよね。でも、今作では前世紀初頭の中国人の世界観に合わせるまでに僕自身ちょっと戸惑いがあって……。義和団しかり、当時の中国人にとって、お札を貼って神様の力を自分に宿すとか、変な修行で無敵の肉体を作るとかって、オカルトでも何でもなく、リアリティの一部だったんじゃないかと思うんです。だからこそあんなに広まったんでしょうし。ただ、歴史小説の中でそういう世界観を描こうとすると、近代化された僕の常識が邪魔をするんですね。そんな時に『マンチュリアン・リポート』を読んで、衝撃でした。汽車が喋ってる、と……。

2023.07.03(月)