浅田 もっと研究されてもいい戦争ですね。

世代で変わる戦争観

 小川 スケール感なしで始まった日中戦争もさることながら、子供の頃から「なんで、勝てるわけないのにアメリカと戦争したんだろう」というのが不思議だったんです。太平洋戦争について授業で習った時に、小学生の僕でさえアメリカと日本の力の差が分かるのに……と。勝ち負けと戦争の是非は別問題として、素朴に「なぜ?」と。その後、当時の日米の立ち位置や国際情勢を勉強して、現代の僕らの判断基準とは違うことは理解しつつ、大人になっても根本的には「なぜ?」と思い続けています。

 自分だけでなく親も戦後生まれで、物心ついた時にはアメリカが世界トップの国だった。そういう僕らの世代にとっては「なぜ?」が第二次世界大戦に対する当然の反応だと思うんです。だから今、戦争を書くのであれば、「なぜ、あのアメリカと日本は戦争をしたのか?」「なぜ、あの広い中国に戦争を仕掛けたのか?」ということを、ある程度納得できる形で提示すべきだ――というのが僕の作家としての考えです。

 浅田 戦争観というのは時代により激変してきました。日清戦争、日露戦争はもちろん、太平洋戦争開戦時ですら、“戦争の決着”というものがあれほど壊滅的なことになるとは誰も想像していなかったでしょう。それまでの戦争は適当なところで和平を結び、あとは外交交渉に持ち込むというのが定石だったわけですから。しかし科学が進歩すれば兵器も威力が増して悲惨な結果になるということを、せめて軍人は予測すべきだった。地図を理解していなかったことといい、日本に科学的先見性がなかったことが「なぜ?」に対するひとつの答となるでしょうね。

 ところで、小川さんのお父さんは僕と同じくらいのお年ですか?

 小川 おそらく。父は戦後生まれ、祖父は学徒動員の世代です。

 浅田 僕は小川さんとは一世代違いますが、戦争の記憶がダイレクトにあるか否かというのはやはり大きい。昭和26年東京生まれだと、焼野原を見た覚えはありませんから。戦争観も、戦争体験のある親世代よりはむしろ小川さんの世代に似ています。

2023.07.03(月)