浅田 満州――現在の中国東北部を実際に歩かれたなら、建築にも目を惹かれたでしょう。

 小川 上海や北京などとは全然違う、東北地方の都市独特の魅力がありますね。ハルビン、長春、大連などは日露戦争前後に急に作られた街なので100年から150年くらいしか歴史がないし、当時の建築物が基本的には全部残っている。区画も放射線状にきれいに整理されていたりして、人工的な、人間の計画に基づいた気配を色濃く感じました。

 浅田 時間をかけて自然に出来上がったのではなく、皆がこぞって実験をしたような面白さですね。思うに、東北部というのはどこまでも平原が広がっていて山や河という比較対象になる自然がないせいで、人工物の大きさの基準がぶれているんじゃないかと。例えば大連。街自体は大規格なのに、満鉄本社は意外と小さいし、駅舎も上野駅のほぼコピーに過ぎない。そうかと思えば長春に行くと外周1キロのロータリーとか、何もかも巨大。比較する山がないから、街ごとに大きさがちぐはぐになるんですよ。

 小川 ああ、分かります。高速鉄道に乗っていると、本当に地平線の果てまで見えるんですよね。都市開発が進んでも農村地帯との境界線がすごくはっきりしているというか。平らな田園風景から唐突に高層ビル群がそびえて、それが終わるとまたどこまでも平原が続く。

 都市の駅前は大型商業施設が並び、タワーマンションの建設ラッシュ……と東京と変わらない光景が広がっていますが、違うのはその数ですね。日本ではあり得ない数、同じ形のタワーが百棟くらい群立している感じなんですが、30年前はどうでしたか?

 浅田 まだ人民服を着ていましたし、北京ですら主な燃料が練炭だったので、そこらじゅう練炭運びのリヤカーだらけ。あと、自転車の波ね。それが2008年の北京オリンピックでガラッと変わった。日本の高度経済成長期の中で育った世代としては、昔の記憶をリプレイしているかのよう。古いものを片端から壊して、国中が均一化していく。近代化するばかりが果たして進歩なのだろうかと、大いに疑問です。

2023.07.03(月)