僕の芝居は彼女に影響されて大きく変わった
――伊咲と丸太はいわゆる恋愛関係に発展しますが、恋にならなくても強固な結びつきだったのではと思います。ふたりの関係をどう見ていましたか?
丸太は最初、不眠症で悩んでいるのは自分だけだと思っていました。でも、伊咲も同じ状況だと知り、さらに伊咲の家族に会ったり、おばあちゃん家に一緒に泊まりに行くようになって、彼女のことをどんどん知っていくんですよね。丸太の「なんで俺だけなんだろう」という最初のセリフがあるんですけど、その悩みが解消されていくのは伊咲のおかげだなと思うんです。
かつ、ふたりはお互いに、お互いの要素を受け入れているんですよね。悩んでいるのが自分だけじゃないと自然と感じられていることが、この関係においてすごく大切なことだと僕は思っていました。自分の弱さをさらけ出して、そこに対して「自分だけじゃない」と思える関係だったんじゃないかと思います。
――恋愛でも友情でもあり、特別な関係性ですよね。
「味方」という表現も当てはまりそうですよね。丸太から見て、初めて弱さを出せる相手が伊咲だったんだなと思います。
――閉じていた丸太の心が開いていく過程や、自分の視野が広がっていくところが作品の魅力のひとつだとも思います。そのあたりも意識されて演じていたんですか?
意識はしていたんですけど、僕が意識したことよりもやっぱり伊咲……森さんの存在が大きかったのかなと思います。伊咲のお芝居によって、本当にこちらの気持ちが変わりました。
実際にお芝居をやっていると、伊咲が丸太に語りかけているのか、森さんが僕に話しているのか、わからなくなる時があるんですよね。ただ、間違いないのは役であろうとなかろうと‟僕”が彼女の存在で変わっているということ。
そうしてスムーズに気持ちに乗れたことは、もちろん監督の演出もありましたけど、森さんと伊咲の力だから本当にすごいなと思いました。その感覚を僕は丸太としてというより、生で体験した感じがあります。
――それほど森さんの演技が素晴らしかったということですよね。
すごかったです! 丸太として伊咲との関係を作る上でもすごく助かりました。「天才」という言葉を使うと安っぽくなってしまうけれど、森さん自身が伊咲のことをすごく理解していたからこそ、この作品ができたのかなと思っています。
2023.06.22(木)
文=赤山恭子
撮影=深野未季
スタイリスト:伊藤省吾 (sitor)