でも、10歳の頃からいろんな方にお世話になりながら、“さくらまや”としてやってきたんですよね。解散を告げられた帰り道に、ひとりで1時間ほど考えたんです。事務所の方たちは私のことをちゃんと歌手として育ててくれて、出番前に楽屋でトランプをやってくれたりとか。

 そういう思い出もいっぱい蘇ってきたし、「やめるなんてもったいない」とおっしゃってくれる方たちもいて、「“さくらまや”をなくさないようにしたいな」「もうちょっとやってみようか」と思って。

 後日、改めて事務所を訪ねて「そういう気持ちがあるんですけど」と話をしたら、快諾してくれました。

ーー独立と家の購入が重なって、なかなかハードだったのでは。

さくら 事務所との契約を解除しつつ、そのまま“さくらまや”としてやっていく許可もいただいて。その交渉をしながら、弁護士さんとも話し合ったりもしました。そのタイミングで事務所が借りてくれていたマンションも出なきゃいけなくなったんですよ。

 なので、事務所を設立するのも家を買うのもバッタバタでやりましたね。運転免許がないうえにパスポートも切れていたので、身分証がなかったんです。いろんな手続きに身分証が必要になるんで、あわててパスポートを取りにいったりとか。

資本金11万円で新しい会社をスタート

ーー大変だったものの“新たなスタート”といった感じで意気揚々としていたところがあったのでしょうか。

さくら いやぁ、うまくやっていける自信はあまりなかったです。とりあえず、自分の会社だけは設立しておこうと、祖父や姉の家族などを役員にしたんですけど、「私達が役員の会社なんて恥ずかしいよ」って言われちゃって(笑)。資本金に関しても「やめるかもしれない会社に、そんなにお金出したくないな」って声もあがったので、11万円ではじめました。

 

 歌手の仕事って、自分の歌と衣装があればなんとかなるので「いけるかな」と。それでやってみたら、すこしずつお仕事をいただけるようになったんですよね。そのあと、2020年の9月に「独立しました」と正式にアナウンスしたら結構な反響があって、いまにいたります。

2023.06.06(火)
文=平田裕介