●悩みに悩んだ4年ぶりの主演映画での難役
——4年ぶりの主演映画となる『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』では、大学のぬいぐるみサークルに所属する七森役を演じています。
このお話をいただいてから、原作と準備稿段階の脚本を読んだのですが、間違いなく今、そしてこれからの時代、必要になってくる作品だと思いました。SNSが普及したことで、みんなが気軽に意見を発信できるようになったけれども、それにより気軽に人を傷つけられるようにもなってしまい、さまざまな場所で傷つく機会が増えてしまった。そんな時代に、観たときにどこか甘えられる、優しくなれる作品だなって。だから、絶対にやりたいと思いました。
——七森は「男らしさ」「女らしさ」が苦手なとても繊細な役柄ですが、役作りについては?
ここまで繊細な役どころは、今までなかったので悩みました。この作品に入るまでドラマの現場が続いていたんですが、ドラマって、台本に役作りの答えが書いてあることが多いんです。だからこそ、この映画の台本を読んで、余白の多さに気付き、「それをどう埋めるか?」が大きな課題になりました。でも、とにかく分からないし、今も明確に「こうしました」とも言えない。七森が傷つくシーンに至っては、最悪自分が傷つけばいいとまで思っていましたから。
——俳優としてのキャリアを着実に積んでいても、答えが出なかったということですか?
『町田くん』の頃に比べれば、確実に手札は増えていますが、「果たして、七森に生かしていいのか?」というところですよね。でも、余計な芝居はしたくなかったですし、七森に変な色を付けたくなかったんです。だから、彼に対して、手札は使わなかったです。ただ、金子(由里奈)監督自身、とても繊細で優しい方なので、監督と会話することによって、どこかでヒントというか道しるべになってもらったような気がします。加えて、ほかのキャストさんに甘えさせてもらうというか、彼らのお芝居で作った雰囲気に乗っからせてもらいましたね。
——細田さん自身にとって、どのような一作となりましたか?
前々から七森のような役をやりたかったので、それが叶ったことがいちばん嬉しいです。そして、これからもストーリーが分かりやすいエンターテインメント色の強い作品をやりつつ、この作品のように心の機微を丁寧に描いた映画ならではの表現を追求した作品もやっていきたいと思いました。芸術作品に万人受けという言葉はないので、いろいろ挑戦していきたいです。
●自分が出る作品をより知ってもらえるよう努力したい
——現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」では徳川信康役を演じられています。
今、現在進行形で進んでいる現場は大河だけなので、集中しながら、リラックスしながら、やらせてもらっています。やる前はずっとソワソワしていたのですが(笑)、周りの先輩たちに支えてもらって、話しかけてもらって、どんどん自分なりの信康くんが出来上がってきたような気がします。
——今後の展望や目標を教えてください。また、憧れの先輩はいますか?
もちろん、やりたい役はありますが、それ以上に自分が出る作品が、ほかの人に認めてもらうというか、より知ってもらえるよう努力したいです。そのことが当たり前ではないですし、作品を作って終わりではなくて、それをお客さんに届けるところまで丁寧にやりたいです。また、憧れる人を出した瞬間、そこが自分の限界になって、僕の成長が止まってしまうような気がするので、そういうことは考えないようにしています。
細田佳央太(ほそだ・かなた)
2001年12月12日生まれ。東京都出身。14年に俳優デビューし、『町田くんの世界』(19年)の主演に抜擢。その後も「ドラゴン桜」(21年)、「もしも、イケメンだけの高校があったら」(22年)などに出演。NHK大河ドラマ「どうする家康」のほか、夏には「メルセデス・アイス」にて舞台初主演を務める。
映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」に入部した、“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森(細田佳央太)や彼と心を通わす同級生の麦戸(駒井 蓮)。また、サークル副部長・鱈山(細川 岳)ら、日々の生きづらさを感じている人々の姿が描かれていく。
2023年4月14日(金)より新宿武蔵野館、ホワイトシネクイントほかロードショー
https://nuishabe-movie.com/
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2023.04.21(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=岡本健太郎
ヘアメイク=菅野綾香