1927年に開業し、現在では貴重なクラシックホテルとして横浜のシンボルともなっているホテルニューグランド。一歩入ればその厳かな雰囲気と、ぬくもりのある歓迎に心を掴まれます。
ニューグランドマイスター制度は、来たる2027年の100周年に向け作られたホテル内の認定制度です。「難関だった」という筆記試験と実技試験に合格した初代「ニューグランドマイスター」は11名。建造物や発祥メニューの歴史、豊富なエピソードと、知見を活かしたおもてなし力を認められたスタッフたちばかりです。今回の「ニューグランドマイスターによる館内ツアー付きプラン」は、そんな特別なスタッフともに館内を巡り、とっておきのゲストルームや、レストランでのメニューを堪能することができます。
今回はマイスタースタッフのお話にそって館内をご紹介しましょう。
◆やっぱり見どころが多いのは本館。まずは「大階段」がお出迎え
開業当時の趣きを残すクラシック空間といえば、本館です。横浜港からまっすぐに入ってこられるように作られた本館は、一歩入った瞬間から時を超えたような気持ちに。
正面にある大階段は当時2階にあったフロントにつながっていました。
大階段は手すりや壁、絨毯の下も、総タイル張り。こちら1枚1枚イタリアの工房で焼かれた特注のタイルなんです。繊細な湾曲や接合部分なども緻密に設計して焼かれており、当時の技術の高さには驚かされます。
また、大階段の両サイドにあるオブジェはフルーツバスケット! いわゆる「ウェルカムフルーツ」の意味でここにフルーツを備え付けるとは、そのおもてなしの発想にびっくり。
階段をあがりきるとエレベーターと見えるのが時計と、何やら和風なモチーフ。こちらは京都・川島織物、初代・川島甚兵衛の綴織り作品「天女奏楽之図」。西洋建築と見事に調和した、東洋の美が国内外のゲストを迎えてきました。
天女が音楽を奏で、気分は極楽浄土。こちらも歓迎の意味を込めて、ウェルカムミュージックを表現したのではないかと言われています。
◆時間旅行が叶う「本館 ザ・ロビー」の味わい方
階段を昇り切ると現れるのが、「本館ザ・ロビー」。開業当時はフロント前のロビーであり、現在は宴会場のホワイエとして使われています。
階段をあがってすぐのスペースは石の柱に寺社仏閣で見られるような和紙貼りの照明が和洋折衷の雰囲気を醸し出す。天井の高さは約5メートルあり、開放感がありつつも凛とした空気。雰囲気の違うスペースの間に立って、両方を眺めるのがマイスターのおすすめ。右と左、少しずつ違う雰囲気を味わえます。
奥に進むと、マホガニーの太い柱があたたかみのある雰囲気です。各所に置かれたウッドチェアは、開業当時、海外から持ち込まれた西洋家具を修理していた職人たちが作り始めた「横浜家具」。横浜元町には多くの家具店が並んでいたそうです。日本人の精緻な家具作りは外国人にも評判でした。1脚の椅子に、100種類以上のカンナを使って細かい細工をつけていたとか!
ひときわオーラを放つのが柱のもとにある2脚のキングスチェア。アームが羽根をモチーフにしており、その先端には天使のニケの顔が彫られています。ニケは「勝利の女神」と言われており、いつの間にか「ニケを撫でるといいことがある」とパワースポットになりました。
これほど貴重な椅子に実際に座れる、というのもホテルの懐の深さでしょう。誰もが心を静めて時間を過ごしたくなる場所です。
◆もうひとりの天使も忘れずに!
ニケは勝利の天使。一方、実は、中庭にも天使がいます。こちらは大天使ラファエル。魚を抱いていて、病気の治癒や癒やしに導く天使といわれていますが、〈旅の守護〉という意味も。ホテルのシンボルとしてさりげなく、ぴったりの意味を持つ天使がいるので、ぜひご挨拶を。
2023.04.05(水)
文=CREA編集部
撮影=榎本麻美