佐野 どうしてもテレビ局が舞台だしTBSを辞めたことも含めて、私の物語として重ねやすいんですけど、違うことはいっぱいあって、物語と現実は別ものだと思います。実はオンエア前に、私が奔走して渡辺あやさんの取材を組んでもらったんです。そこであやさんが、私との顛末を全部話してしまったんですよ(笑)。
私がなかばライフワークとして冤罪のルポルタージュや死刑囚の日記を読んだり、裁判の傍聴に行ったりしていたこと、TBSからカンテレに移籍するまでの経緯。「あなたは何者か」と問われ続け、長い時間をかけてそういうことを2人きりで話しながら、『エルピス』ができるまでのストーリーがオンエアより先に開示されることになりました。これは私にとって想定外のことだったんです。
――想定外だったんですね。参考文献にあげられた実在の複数の事件や、ある政治家を思わせる描写もあり、フィクションに現実が入りまじる表現の仕方はドラマ全体を通して印象的でした。いま冤罪事件とその報道を、個人の弱さの克服の物語とともに描いたことが芸術選奨文部科学大臣新人賞では評価され、インターネットでもさまざまな声を呼んで、昨年最大の話題作になったと思います。
佐野 少なくとも2人の話や私個人の話が、もう1本のストーリーとして『エルピス』に重ねられるのは、自分にとってあまり本意ではありませんでした。ただ、これほど反響があったこともないので。現実と地続きの物語を作ることの大変さをあらためて感じましたね。
ドラマは、物理的にどうやって撮るかということも含めて、作家とプロデューサーが共同作業をしながら作っていく部分が大きいんです。テレビ局で働く女性を主人公にする以上、どうしても私の考え方や物事の捉え方は雑談も含めて参考にする部分はあると思います。だから、私であって私ではない。こういった経験をすることは二度とないと思いますし、「放送前にインタビューを読んだからドラマを見た」という人もいたので、良くなかったとも言い切れないんですけど。
2023.03.28(火)
文=ひらりさ、佐野亜裕美
撮影=平松市聖/文藝春秋