頭の中でLED電球がピカッと光ったように納得した。これは「揚げ置き天ぷらの美学」といってもいいだろう。もちろん、立ち食いそば屋の天ぷらは高級天ぷらを目指すものではなかったということもある。コロモが多ければ腹持ちもよく、空腹感を満たしてくれるという側面もある。田舎のおばあちゃんが作ってくれたようなあのもっさりした天ぷらが懐かしいという人もいるかもしれない。とにかく、昭和50年代の「大船軒」の天ぷらはうまかった。「天ぷらいわた」の名作だったというわけである。
「今は天ぷら揚げ立ての店も増えていますが、中には昔懐かしい天ぷらが食べたいというニーズがあって、再契約をしてくれる店もあります」と岩田社長は誇らしげだ。
裏方として生きるか新たな活路を目指すか
さて、売上げを増やすにはどうすればいいか。そんな中、鎌倉の知り合いの製麺所の社長から勧められたのがきっかけで、平成22(2010)年からデパートの催事で小売り販売を始めることにした。
「初めは高島屋で、私が実演で天ぷらを揚げ家族総出で売り場に立ちました。徐々に催事の仕事が増えていき、現在は悠生が担当して実演販売を頑張っており、彼の努力で必ず立ち寄ってくださるお客様も増えてきました」
催事では高級天種をそろえメリハリをつけているとか。子安の知り合いの漁師からアナゴを仕入れたり、鎌倉腰越産のしらすで「しらすのかき揚げ」を提供したりと奮闘中である。次回は3月7日~13日、そごう横浜店で販売予定という。
また、岩田社長の奥様が天ぷらの箸休めにうってつけの和風のピクルスの販売を始めたという。
「卸は今後も手堅く販売を続けていき、催事で知名度を上げていきたい。ピクルスの販売もその一環。将来は一般向けの天ぷら店もやってみたい」と岩田社長は熱く語る。
つゆにつけると天ぷらの味が華開く不思議
1時間半以上の大盛り上がりの取材になってしまった。催事場での岩田悠生さんとの再会を約束して本社工場を後にした。
2023.02.27(月)
文=坂崎仁紀