「天ぷらも各店によって細かいニーズがたくさんあります。揚げ具合や食材の選択など細かい要望にすべて応えて、天ぷらを調理していきます。夏は特に暑いし、冬でもかなり過酷な現場です」と岩田社長。

天ぷらには4種類ある

 さてここで天ぷらの勉強タイムである。そもそも天ぷらといえばカラッと揚げられたものが喜ばれる。高級老舗そば屋や「てんや」のようなファスト店では、注文してから天ぷらを揚げる。こうした店は「カリッと天ぷら」を目指している。

 もちろん、「普通の天ぷら」というのもある。コロモも普通で揚げ時間も普通、すぐ食べる家庭の天ぷらである。

 

 ところが、立ち食いそば屋で揚げ置きを提供している店ではそうはいかない。「カリッと天ぷら」も「普通の天ぷら」も時間が経つとしんなりしてうまくない。そこで、時間が経ってもいいように低温でじっくり長めに揚げて水分を逃した「カチカチの天ぷら」を作るところがある。市ヶ谷の「瓢箪」などはその典型例。

 そしてもう1つ揚げ置きするための「コロモやや多めの天ぷら」というのもある。「天ぷらいわた」の天ぷらはこの範疇に属している。いわたの天ぷらは大きくしっかりとしたタイプである。

つゆが沁みやすくなる工夫

 ではなぜコロモをやや多めにして天ぷらを揚げるようになったのか。これは今回の訪問でもっとも聞きたかった質問であった。すると岩田社長は目を輝かせて話し出した。

「玉ねぎを例にしてみると、カリッと揚げても時間がたつとしんなりしていまいます。かといって時間をかけて水分を蒸発させ過ぎるとしぼんでクタクタな貧相な感じになります。そこでウチで考えたのは次のような方法だったんです。ある程度コロモをまとって玉ねぎの水分を蒸気にして出していくと、それがコロモの中に気泡のようなものをつくります。そしてそれが蒸発して空洞になります。納品後もこの状態が残っていますから、そばつゆをかけるとそこにつゆが沁み込んでうまみが天ぷらに広がって味が華開くというわけです」

2023.02.27(月)
文=坂崎仁紀