「好きあったふたりが結ばれるというのは、いつの時代も変わらず、当人たちの腹のくくり次第じゃないでしょうか。ふたりの“決め”が必要です。

 今回、作中の1篇『初午参り』を書くにあたって、初めて京都の伏見稲荷大社に行ったんです。あそこは参詣するとなると山登りに近くて、そこにお参りに来るということの重さを実感しました。よほど腹のくくりがないとここには来られないな、と。その体験で、まず自分の中で秀弥が決まってきた。

 秀弥の来し方行く末を考えると、彼女が背負っているものの第一は料亭・江戸屋を継いでくれる跡継ぎを授かる事です。これが秀弥に課せられた大きな使命だということを、『初午参り』を書きながら思いました。そうして、幼い日の秀弥が父親と伏見稲荷に参詣した過去と、自分の使命を果たそうとする決意が重なった。

 一方で、喜八郎も一歩を踏み出すためには、何かを“決め”なければいけない。これには『初午参り』に出てくる心中を図った男女のその後の腹のくくり方が、影響したのかもしれない。そう考えていって、今回の『固結び』という作品に仕上がりました」

 喜八郎と秀弥の仲が進展し、シリーズは新たな展開を迎えそうだ。

「喜八郎は損料屋を徐々に番頭の嘉介にゆだねていくけれど、やはり旦那であり司令塔です。でもこれからは、江戸屋との係わりをどうしていくか。そして秀弥は、喜八郎と結ばれ跡継ぎを授かる身として、この先、何を思い願っていくか。そのふたつが、物語の通奏低音として流れていくでしょうね。読者の方にこの先を楽しみにしてもらえるなら、こんなに嬉しいことはありません」

2023.02.06(月)