なるほどこうしてみると、「現代東北文学」の担い手の層は厚く、東北とは文学がしっかり根づいている土地なのだと改めて感じさせる。東北で書く作家たちには、なんらか作品上の特長はあるものだろうか。
「東北って広いんですよね。山や海が壮大で田畑も多く、とにかくスケールが大きい。どこか荒涼とした風景が拓けているからこそ、そこに想像力で何らかの物語を打ち立てたくなるところはあるんじゃないでしょうか。想像力を掻き立てられる土地柄であることはまちがいないと感じています」
繰り返し描写される東日本大震災。そこに込められた意図は…
東北に住む者として東日本大震災を経験し、今作でもその日の記憶や影響は繰り返し描写される。
「『荒地の家族』は、一生活者の日常をリアルに表現できればいいなという思いがまずありました。震災については、主人公の祐治の日常から浮かび上がってくる風景や要素として、当然入ってきたというところです。小説のなかに震災を織り込むことによって、時とともに出来事が忘れられていってしまう流れにすこしでも抵抗できれば、とは思っていますが。たとえば本屋に来て何かおもしろい本はないかなと探すとき、大々的に震災をテーマにした本には、なかなか手を伸ばしづらいかもしれない。小説のかたちのなかに溶け込ませてあれば、まだ飲み込みやすいという人もいるんじゃないかという気はするので」
作中では、幾人もが原因不明の調子の悪さに悩んだり、実際に命を落としたりする。その様子が震災との因果関係の有無を明示せぬまま、ただそうあったこととして描写されていて、リアリティが増す。
「自分の周りにも、震災の後に不意に体調を崩したり、亡くなってしまった方はいます。それは震災とは関係ないのかもしれないし、なんらかの影響があるのかもしれない。どれだけ考えてもわからないことですね。そういったことはニュースで報じられたりはしないでしょうけど、小説のなかでなら掬いあげて考えることもできる。日ごろなかなか意識しないようなところまで、ちゃんと書きたいという思いはあります」
2023.02.07(火)
文=山内 宏泰