――『大奥』には大勢のキャラクターが登場しますが、その中で特に思い入れが強いのは誰ですか。

 よしなが 将軍の中では家重という身体が不自由だった人に一番思い入れがあります。知的障害があるように思われているけれど、言葉が不明瞭だっただけで頭は働いていた。実際の家重もそうだったみたいで、お付きの人しか言葉を聞き取れなかったというんだけど、その人が聞き取れたということは、ちゃんと理屈の通ったことを言っていたんじゃないかと。将棋がすごく好きだったという話も残っています。でも、家臣たちにはバカにされていただろうから、すごく悔しかったでしょうね。

 一方で、身体に障害のある人が国家権力の頂点に立てるというのは平和であることの証拠だし、世界的にもあまり例がないので、むしろ日本としては誇っていいのだというふうに書いていた本があって、本当にそうかもなと思いました。それは官僚機構のシステムが確立しているということでもあるし、さっきの天然痘の話と同じく前例があるということはすごく大切で、1回でもできたということはこれからもできるという希望だと思うんです。

漫画家・よしながふみ氏のインタビュー「『大奥』は全部女の痛快な世界」全文は、「文藝春秋」2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

2023.01.26(木)
文=よしながふみ