でも、それは漫画だけじゃないけれど、物語にも責任があるのかなとちょっと思っちゃいます。政治家というと、とにかくお金に汚くて、自分たちのことしか考えてなくて、国民のことを考えてる政治家なんていないというふうに物語が繰り返し描いてきちゃったところがある。有名人が「政治家に転身します」というとガッカリしちゃう、みたいな。だけど、本当はすごく大事な仕事なので、「政治家になりたい」という人はもっと応援してあげてもいいし、「(週刊少年)ジャンプ」とかでそういう漫画が出てくれたら違うんじゃないかと思ったり(笑)。
――『ヒカルの碁』(原作/ほったゆみ・漫画/小畑健)で碁をやる子供が増えたみたいに、政治家がカッコいい仕事ということになれば。
よしなが そうなんですよね。でも、私も江戸時代だったらこうやって政(まつりごと)の大切さは描けるけど、現代ものでやれと言われると難しいかも。面白い漫画にできるのかどうか。どうしてもパワーゲームの面白さみたいなところに行っちゃう可能性がありますよね。国のために何をするかじゃなくて、どうやって派閥の敵を引きずり下ろすか、みたいな。
赤面疱瘡と新型コロナ
――それともうひとつ、もちろん偶然ではあるんですけど、今読むとどうしても赤面疱瘡と新型コロナが重なって見えてきます。
よしなが コロナは世界中で蔓延して日本も関係あるので、今私たちはコロナだけ注目していますけど、『大奥』を始める前にお医者様にお話を伺ったときは、エボラ出血熱が記憶にまだ新しい頃でした。SARSもたまたま日本ではそんなに広がりませんでしたけど、地域によっていろんな感染症が繰り返し流行している。これからも新しいウイルスが出てくるスピードが速くなることはあっても、なくなることはないだろうと感染症の先生がおっしゃっていた。ただ、その中で天然痘だけが唯一人間が打ち勝った病原体で、一例でもそういう経験があるのは人類の希望だから、みたいな話になって、1回の成功体験って大事だなと思いました。18世紀の終わりにジェンナーが種痘を開発しているので、それをヒントに赤面疱瘡の予防法が考案される流れになりました。
2023.01.26(木)
文=よしながふみ