――女将軍たちは必ずしもなりたくてなったわけじゃないんだけど、そこで人間的にも政治家的にも成長していくという一種のビルドゥングスロマンになっています。
よしなが そうですね。でも、どっちかというと描いてみてわかった感じです。逆に、たとえば家光編の有功(ありこと、お万の方/作中では男性)はすごく立派な人なんだけど、ずっと大奥にいるとできることが限られているので、彼はまったく成長しないまま将軍としての務めを果たしていく家光にどんどん追い越されていくような感覚に陥る。それで最後は自分に仕事をくれと言って大奥総取締役になって仕事人になるわけです。役割を与えられない人の苦しさみたいなものが男女をひっくり返すとよりよくわかると思いました。
――「地位が人を作る」みたいなところもありますね。
よしなが あると思います。それを女の人で描けるのはすごく楽しかった。家光なんか決して自分で望んでいないのに、やっぱりそういうことになるというのが面白くて。人間としてはちょっと欠けたところがあるけれど、国家の確立のためにはすごく的確な判断が下せる、という。そのへんは実は本物の家光像をわりとそのまま採り入れています。
江戸時代だったら「政」の大切さは描ける
――作中の将軍たちは、なかにはちょっとダメな人もいますけど、だいたいちゃんと国のことを考えて仕事をしていく。それに比べると、今の日本の政治家があまりにも頼りなく見えてしまうのですが、よしながさんはどうご覧になりますか。
よしなが でも、みんなが選んでいるんでしょう。これがまさに今の日本の民主主義の結果なんじゃないですか。いつも思うけど、投票しましょうよって。子育て世代や若い人たちが投票しないから、政治家がその人たちに向けた政策を打ってくれないわけで、若い人たちが票田だとわかれば、どの政党が政権担当することになっても絶対に若い人の機嫌を取ってくれるはずなんです。だから、まず投票しましょうよ、と。そこから積み上げた先に政治家がいるんじゃないかと思うので。みんなが見てるよってなれば、同じ人がやっていたとしても、違う結果になるかもしれないと思いますし。
2023.01.26(木)
文=よしながふみ