よしなが それは描いてみた結果そうなった感じですかね。最初の家光のところでは恋愛もののつもりだったんです。途中で赤面疱瘡のワクチン開発の話になって、政治の話にもなる。お重箱じゃないですけど、一の重、二の重と開けていくとちょっとずつ景色が違うような、読者さんが飽きずに最後まで読んでもらえることを第一に考えました。

女王や女性首相に女将軍!?

――通読すると、ここに描いてあることが本当の歴史だったんじゃないかと思ってしまうぐらい、うまく構成されているなと感嘆しました。

 よしなが 本当の歴史を下敷きにしている部分もすごくあるので。一番ウソをついているのがワクチン開発のところで、それ以外はわりとそのまま男女逆転させただけなので、史実に助けてもらった感じです。

――史実があるから描きやすい部分と描きにくい部分があるかと思うのですが、そのへんはどうでしょう。

 よしなが 基本的に描きやすかったです。描きにくいところがあるとすれば、自分だと考えつかないようなことをやる人たちがいるところ。やった事実は変えられないので、それをどう自分のキャラクターに落とし込むかというのが難しい部分はありました。家茂なんかもそうで、調べても嫌なところが全然出てこない何の特徴もない将軍で。しかも若死にしちゃうので資料も少なくて、漫画のキャラクターとして作るには物足りなかったんです。でも、じゃあ思い切ってすごくいい子にすればいいのかと思って、何の欠点もない可愛い女の子で描いたら、それはそれで楽しかったので、「なんだ、別にそんなわかりやすい欠点とかいらないのか」と勉強になりました。

 

――先頃、初のインタビュー本『仕事でも、仕事じゃなくても』(フィルムアート社)を出されました。仕事と人生について語り尽くされた本ですが、『大奥』に関して「女性が働いていることが普通である社会を描きたくて」と語られています。

 よしなが そのほうが面白いと思ったからです。女性向け漫画誌の連載でしたし、女が将軍というのは痛快だろうと。現実でも女王や女性首相はいますけど、トップだけじゃなくて補佐官も下っ端の役人も全部女というのはなかなかないですし。忠義心というか、「命を懸けてこの人を将軍に押し上げたい!」みたいな気持ちは女同士でもきっとあると思って。今は「推し活」という言葉がありますけど、推しを輝かせたい気持ちに男女の区別はないはずです。

2023.01.26(木)
文=よしながふみ