でも、それだけじゃないと最近知った。以前はベッド脇のたんすの引き出しに立ててあった良英さんの写真。それが近頃は、枕にくっつけるように置いてある。

「そばに寄せたのは、やっぱり恋しいから?」と尋ねると、意外にも「そうでもない」と言う。

 

「良英さんが寂しゅうないように、こっちで思うてあげてるからねって言いよるん」

 哲代おばあちゃんは見守る側でもあるのだ。

 倶会一処とは、倶にまた、お浄土で会えるというお釈迦さまの教え。哲代おばあちゃんは、良英さんとの再会シーンを思い描いては私たちに聞かせてくれる。

「しわが増えてしもうたから。気付いてもらえんで素通りされたらどうしよう」

 肩を落とし、うつむいてみせる。

「いや、声で分かるかもしれん。大声で歌いながらいこうかしら」

 ひとり、くくくと笑う。

 つられて、こっちも笑ってしまう。死後の話なのに湿っぽさはなく、むしろ生き生きと想像の翼を広げる哲代おばあちゃん。円熟した人が放つ、穏やかな輝きを感じる。死は怖いことではなく、生きることの延長にあるのだと教えてくれる。

「向こうに、ええ人がいたりして」

 なんて、時にかわいく嫉妬したりする。5冊の「終活ノート」には書いていないが、「死に化粧は念入りにしてね」と姪たちに伝えているという。

2023.01.25(水)
文=石井 哲代,中国新聞社