作者である水生大海さんといえば、ドラマ化もされた「ランチ探偵」シリーズが、大枠でいえば本書と同じ仕事+謎ときシリーズで、ここから水生作品を読み始めたという方も多いだろう。が、個人的な好みとしては、結婚詐欺に遭った主人公が、騙す側にまわり次々と悪事に手をそめていく『熱望』(二〇一三年文藝春秋→二〇年文春文庫)を挙げておきたい。ヒナコシリーズの読者にお勧めするにはどす黒い話ではあるけれど、そのふり幅を楽しんでもらえるのではないかと思う。

 もちろん、次なる目標を定めたヒナコに、早くまた会いたいとも願っている。本書から「いきなり文庫」として更に身近な存在となったが、次作では、この後、多発した各種助成金詐欺を「やまだ社労士事務所」の面々はどう受け止めているのか(特に丹羽さんの弁が聞きたい!)が知りたい。『ひよっこ社労士のヒナコ』で、〈前に独立して出ていった〉と語られていた三好さんの病気は完治されたのかも気になっているし、屋敷コーポレーションの切れ者、五郎丸元店長及び元資材課係長がゴリゴリ復活した姿も見たい。本書の気になる存在としては、パティスリー・キャベツ工房の二代目、道下和雄社長がちょっと深掘りして欲しい人物だ。なんかこう、意外な一面がありそうな……。

 クライアントである企業の側に立つことを前提にしながらも、従業員の気持ちに寄り添うヒナコも、やがて時が経てば自分が雇用者になる可能性がある。同じ法律や規則が、また違って見えることはあるのか。「ひとり休まれたらアウト」な状況に陥ってしまっても正しくあり続けられるのか。そうした揺れも読んでみたい。

 そして何より、この世の中にあることさえ知らなかった武器の使い方を、またヒナコに教えて欲しい。飲み込んだ不満で胸を潰されることなく、世知辛い日々を生き抜くために。

2023.01.25(水)
文=藤田 香織(書評家)