本書『希望のカケラ 社労士のヒナコ』が連なるシリーズは、そんなやりきれなさを抱えて働く人々の鎧にもなり、刀にもなる物語である。

 え? そんな決まりがあるの⁉ あれってそういう意味だったんだ! といった気付きがあり、それをきっかけに、だったらこう斬り込めるかも……といった職場で生き抜く戦術のヒントにもなる。なによりも、堅苦しくも小難しくもないのに、少しだけ自分が強くなれた気がするのがいい。別に闘わなくてもかまわないのだ。少しでも、闘える準備が自分にはある、と思えることが重要なのである。

 まずはその概要を記しておこう。

『ひよっこ社労士のヒナコ』(二〇一七年文藝春秋→一九年文春文庫)、『きみの正義は 社労士のヒナコ』(二〇一九年文藝春秋→二一年文春文庫)に続き、本書の主人公を務める朝倉雛子は、現在二十九歳。大学新卒時の就活が上手くいかず、派遣社員として各種手続きに追われる総務、労務、人事畑を渡り歩くうち、「社会保険労務士」なる国家資格があることを知って、正社員の道が開けるのではないかと勉強に励み、合格率一割以下、しかも一年に一度しかない試験を三度目にして根性で突破。二〇一七年の四月半ばから「やまだ社労士事務所」に勤めて丸三年が過ぎたところだ。

 社労士=社会保険労務士は、いわゆる八士業(弁護士、税理士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、弁理士、海事代理士、そして社会保険労務士)のひとつで、ヒナコ曰く〈労働や社会保険に関する専門家であり、おおざっぱに言うと会社の総務のお手伝いをしている〉。各種の社会保険や行政機関への申請書類をクライアントに代わって作成したり、労働管理の相談や指導を行う仕事である。

 現在ヒナコが籍を置く「やまだ社労士事務所」は、五十代半ばにさしかかる山田所長と、共同経営者であり税理士の資格を持つ妻の素子さん、スーパー事務員の丹羽さんの四人態勢。山田夫妻にも丹羽さんにもふたりの子供がいる。入所当時は丹羽さんから「ヒヨコちゃん」と呼ばれていたヒナコも四年目ともなれば成長し、新たな目標が見えてきた。しかし、二〇二〇年。世の中は新型コロナウイルスの蔓延により、まったく予想もしていなかった事態へと突入。本書では、様々な給付金や助成金の煩雑な手続き関連で大忙しとなった「コロナ一年目」の夏から翌年へかけての約一年間が描かれていく。

2023.01.25(水)
文=藤田 香織(書評家)