『幽霊人命救助隊』とは全くの別作品

 高野さんの著作には、累計で33万部を超えるヒット作『幽霊人命救助隊』がある。こちらは、大学受験に失敗して自殺をした主人公ら浮かばれない4人の霊に対し、49日以内に自殺しようとする100人を救えと神から命令が下るという、笑いあり涙ありの物語。幽霊と言っても、『踏切の幽霊』はまったく異なる作品である。

「幽霊といっても完全に別ものです。『幽霊人命救助隊』の幽霊像は完璧なフィクション。幽霊という題材でフィクションもノンフィクションもないと言われそうですが(笑)、『踏切の幽霊』は現実にある証言に基づいて、様々な現象を描いています」

 前作から11年も空いたことで、読者にどう受け止められるのかという不安はないのだろうか。

「それはないですね。『このストーリーで大丈夫なのか』といった不安はありましたが、それはいつものことです。毎回、過去にやったことのない話を書こうとしてますので、方法論から何から手探りで進めていくことになります」

最も苦労したのが文体

 舞台は1994年なので、デジタル全盛時代よりも前、オウム真理教事件などが起こるよりも前の話である。そこで気をつけたこととは。

「まず言葉遣いが今とはちょっと違います。当時は普通に使われていたのに、今は明らかに死語になっている言葉をどうしようかと。通常は、そうした言葉は避けて書くのですが、今回はあえて使いました。たとえば『看護婦』『腺病質』、あと『アベック』なども。今の若い人にはアベックの意味が分からないらしいのですが(笑)。余談ですけど、『ヤバい』という言葉が今の意味で普及し始めたときは、自分には相当な違和感がありました。日本語は節操なく変わり過ぎるのでヤバいです(笑)。
 言葉の他にも、社会の規則や習慣なども考証が必要でした。現在では病院のお見舞いに生花は持ち込めませんが、昔は問題なくできたとか」

 最も苦労したのが文体だという。ノンフィクションノベルと言われたトルーマン・カポーティの『冷血』、さらにニュージャーナリズムと言われた沢木耕太郎作品など、色々と読み返してみたそうだ。

2022.12.29(木)