「当初は、一人称か三人称かも迷っていました。三人称にするとしても、一視点か多視点かという問題もあった。三人称多視点にしないと書けない場面が出てきてしまうのですが、そうすると主人公の個人的な心象世界からストーリーが逸れてしまう。そこでまず、ノンフィクションノベルのように書いたらどうかと考えたのですが、『冷血』などは『事実である』という前提があるから読めるのであって、純粋なフィクションであんなに書き込んだら読者は退屈してしまいます。そこでもっと情報を取捨選択して書くニュージャーナリズムのほうを研究し、『著者である私が、過去に記者をやっていた主人公に取材をして書いた』という趣向にしたらどうかとも考えましたが、伝聞という形を取ると読者と物語の距離が離れてしまいます。それで半年以上も悩んだ末に、『雑誌記者の主人公が直接経験していない場面だけを、彼が取材した内容としてニュージャーナリズム風の文章で書く』という解決策を思いついて、今の形になりました。三人称の一視点と多視点を両立させるという荒技です。読者に無駄なく物語を楽しんでいただくためには何が最上の手法か、を考えてこうなりました」

 最後に、執筆中に起きた、何か幽霊と結びつくようなエピソードがないかを尋ねると、

「文藝春秋の仮眠室に幽霊が出ると聞いて見学しに行ったんです。そこでは何も出なかったのですが、別の場所で足音を聞いて振り向いたのに、誰もいなかったということがありました。一緒にいた人たちに訊いても、誰もそんな足音は耳にしていませんでした。で、その晩、家で寝ていたら、見事に金縛りに遭いまして。金縛りは医学的に説明がつくので心霊現象ではないんですが、なんて自分は感化されやすいんだろうと(笑)」

著者プロフィール
 
 

1964年生まれ。
映画監督・岡本喜八氏に師事し、映画・テレビの撮影スタッフを経て脚本家、小説家に。
2001年『13階段』で江戸川乱歩賞を、2011年の『ジェノサイド』で山田風太郎賞と日本推理作家協会賞を受賞。
他の著書に『グレイヴディッガー』『K・Nの悲劇』『幽霊人命救助隊』『6時間後に君は死ぬ』、阪上仁志との共著に『夢のカルテ』がある。

2022.12.29(木)