「白石さん、一体どうしちゃったんですか?」と言わんばかりの反応で、作品の中身について議論する余地などどこにもなかった。

 その後の詳細については『君がいないと小説は書けない』(新潮文庫)で、ほぼ事実通りに詳述しているので重複は避けるが、とにかく二社で門前払いを食った「一瞬の光」が、角川書店(現・KADOKAWA)で出版されることになったのは、文春の同僚で現在はノンフィクション作家となっている下山進さん、夫君の郡司聡さんが勤務する角川書店へ原稿を橋渡ししてくれた、文春の吉田尚子さん、そして、一番は原稿を読んで出版を即決してくれた角川書店の宍戸健司さんの尽力のおかげだった。彼らにはいまでも言葉で言い表せない感謝の念を持っている。

 さて、だらだらと老人の繰り言のように昔話を書き連ねてきたが、そのあとさらに数年を経て、ようやく私の本当のデビュー作である本書『見えないドアと鶴の空』の出版へと辿り着く。『一瞬の光』を出してからは、『不自由な心』、『すぐそばの彼方』を続けて角川書店で刊行し、角川の次は、一番最初に声を掛けてくれた光文社の大久保雄策さんのもとで、まず『僕のなかの壊れていない部分』、『草にすわる』を発表した。そして、光文社の三作目、『第二の世界』から数えれば七作目として、やっとのことで、この『見えないドアと鶴の空』(「鶴」改題)を刊行することができた。

 雑誌掲載から実に十二年の歳月が過ぎていたことは冒頭で書いた通りだ。

 デビュー作であるから、私のこれまでの作品全体を通じて表現されているもののエッセンスが本書にはすべて盛り込まれている。

 私はどの作品でも現実離れした現象を必ず入れ込むようにしているが、実のところ、読者にすれば超常的と感じられるに違いないそれらを、私自身は“現実離れした”ものとはまったく考えていないのである。

 そういう意味で、私はたまにあっち系(つまりスピリチュアル系)の作家のように評されるし、「こういう超常現象に頼るストーリー展開を控えてくれれば、もっともっと読者がつくのに」と残念そうに指摘されることもままある。

2022.12.26(月)
文=白石 一文