息子の顕一(けんいち)、厚生(こうせい)、誠之(せいし)、妻のモジミ、そして、そのモジミの腕に抱えられたまだまだ小さい娘のはるか。テーブルには家族がずらりと顔を揃えていた。久しぶりに目にする家族の顔を、山本はひとりひとり見つめる。そして、にっこり笑うと、猛然と目の前の料理を食べ始めた。
テーブルの上には、つやつやとした青菜の炒(いた)めや大ぶりの餃子(ギョウザ)など、大陸の料理がずらりと並んでいる。モジミたちが苦労して用意した、心づくしのご馳走(ちそう)だった。
息子たちも父に負けじと、一心不乱に料理を口にする。
モジミはむずかる娘をあやしながら、ほっと胸を撫(な)でおろしていた。
たづ子の結婚式は本来、一か月後に予定されていた。それを、山本に手紙で伝えたところ、「結婚式は一か月早めること」とだけ書かれた短い返事が届いたのだ。理由もなくそんなことを言う人ではない。モジミは慌ててたづ子や義母のマサトと共に準備に奔走(ほんそう)し、なんとか八月に式を整えることができたのだった。
物資が揃わない中の準備は苦労も多かったが、嬉しそうにしている新郎新婦や、夫や息子たちの顔を見ていると、報(むく)われる思いだった。
「沖縄は陥落(かんらく)し、広島には新型爆弾も落ちたって話じゃないか」
不意にかけられた言葉に、山本は少し顔を上げる。参列者の一人である片山(かたやま)という男が、酔いのにじむ、少し淀(よど)んだ目で山本を見下ろしていた。片山は手にしていたグラスをグイッと呷(あお)って、言葉を続ける。
「どうなっていくんだろうな、この世の中って奴はよ。妹さんもこれから大変だぞ、山本」
片山はちらりと新婦を見やった。本土から漏(も)れ伝わってくる情報は、暗いものばかりだった。皆が不安を抱え、将来の見通しを立てることが出来ずにいた。たづ子と夫もこの状況で結婚をすることに随分と躊躇(ためら)っていた。その背中を押したのも、山本だった。
2022.12.19(月)
文=辺見 じゅん、林 民夫