マジョリティとマイノリティの溝は埋まるのか

 耳が聞こえない人と、聞こえる人。その差異を乗り越えてどう恋愛していくのかが、きっと本作の見どころでしょう。紬は戸川湊斗(鈴鹿央士)と交際していましたが、湊斗は「恋敵」的ポジションでもなく心優しいキャラクター。このまま二人が付き合っていてほしいと何度も思ってしまうのですが、まぁドラマですからそうもいかないですよね……。これからも恋心の矢印はいろいろと変化していくことでしょう。

 ただ、本作を恋愛ドラマとしてだけみては大変もったいない! 社会的マイノリティとどう付き合うかということの大切さを伝えてくれているからです。あなたは今まで耳が聞こえない人と出会ったことはないと思っていませんか? それって実は、その人の存在に気づいていないだけかもしれませんよ。むしろその人たちの存在をみえなくさせているのは、マジョリティ側の無関心、無理解なのかもしれません。

 第4話で、想と湊斗が紬の家でふたりきりになったとき、湊斗が口で話しながら台所にビールを取りに立つシーンがありました。それは演出として完全な無音の状態で放送。想にとっては、ただの無音でしかないんです。湊斗からはそのときの会話の内容はただの「独り言」とごまかされますが、無音の世界にひとり取り残される寂しさを、画面を通して感じることができる秀逸な場面でした。それをみて、自分も今までいかに音声言語に頼って生活してるかを実感しました。

 それで思い出したことがあります。「みんなの手話」(Eテレ)に出演している三宅健さんが以前、撮影現場は静かだという話をしていました。出演者にろうの方は多いものの、制作サイドは聴者が圧倒的に多いはず。それでも静かなのは、みんなが意識して音声言語を使用しないようにしているからなのでしょう。声でコミュニケーションをとるということは、その場にいる聞こえない人の存在を排除することになる。その場にいるみんなが心地よくコミュニケーションをとることを大事にしているのだなと思って感心しました。そういう心遣いに救われる人がどれだけいるか。

 また、春尾先生がろう者の同僚に対し「特別扱いはもちろん違うし、ただ平等に接することが正解だとも思わないんです」と気持ちを伝える場面も秀逸でした。“特別扱いはしないけど、みんな平等も正しくない”というのは、今あらゆる論点でいえることのように思います。考えも環境も同じ人なんていない世界で、同じじゃないからこそどう他者に接したらいいのか。“正しさ”ではなく、“優しさ”で判断し、行動することの大切さを感じ取りました。

 続けて春尾先生は「手話ができるってだけでわかった気になりたくないんです。どうしたって僕は聞こえるのでろう者同士みたいに分かり合えないです」と本音を吐露。「わかりたいと思う」と「わかった気になる」は紙一重なんですよね。

 紬や湊斗は、想のことを「耳が聞こえなくなった”だけ”」と言いますが、そんなわけないんです。耳が聞こえなくなることで、すべてが変わっているはず。それなのに紬や湊斗は、「変わっていない」と思うことで想のことをわかった気になっている。それが今後の恋愛展開の障壁になるであろうことは容易に想像できます。壁があるのは当たり前で、その上でどう向き合うか。そのことを考えながら、視聴していきたいです。

フジテレビ系ドラマ
「silent」

毎週木曜 22:00放送
出演者:川口春奈、目黒 蓮(Snow Man)、夏帆、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
https://www.fujitv.co.jp/silent/

綿貫大介

編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2022.11.09(水)
文=綿貫大介