スーツにピンヒールで漁師のもとへ。気合十分! ところが…

 これはつまり、漁業の未来をつくる仕事を、手伝ってほしいということか……。坪内さんは依頼をそう解釈し、意気に感じてプランを練った。

 そうして坪内さんが打ち出したのは、生産者が加工から流通まで手がける「6次産業化」と呼ばれる手法への挑戦。とったばかりの魚を漁師が船上でシメて、丁寧に箱詰めし、漁港から独自ルートで消費現場へ届けようというのだ。

 

 この事業に邁進するため、坪内さんは2011年に任意会社「萩大島船団丸」代表に就任。この時、わずか24歳。14年には株式会社化して仕事に打ち込んできたのだが、その航海はいつも荒波ばかりだったよう。

 そもそも萩大島に乗り込んだ直後から、波乱含みである。れっきとした仕事なのだからと、坪内さんはスーツにピンヒールで気合を入れたつもりだったが、漁師たちには「やる気あるのか」「そんなカッコでどう魚を触るんだ」と大不評。これは坪内さんが誤りを認め、すぐ大量にジャージを発注した。

 これまでにない流通経路を開く話だから、旧態依然の漁業界からは大顰蹙を買うどころか、目の敵にされて、当初まったく協力を得られなかった。

 ともに歩むべき漁師たちも、最初は不信感たっぷり。船から降りれば仕事は終わりだった漁師たちに、魚の下処理や事務作業、お客様対応までさせるのだから、軋轢が生じるのは当然だ。伝票ひとつ満足に書けない漁師と坪内さんは、日々ぶつかり合った。

「なんだあの小娘は。男どもはみんな騙されとる!」

 島の小さいコミュニティによそ者が入り込んだのだから、「なんだあの小娘は。男どもはみんな騙されとる!」とさんざん怒りを買った。

 ほうぼうでトラブルが続出する日々。それでも坪内さんはめげずに漁師と話し合い、全国を営業して回り受注先を開拓し、組織を整備し、「船団丸」ブランドの事業を切り盛りし拡大させていった。

 2021年からは加工事業も本格化させ、化学調味料や保存料不使用の製品が大好評。同手法で野菜を扱う組織も含めて、現在は北海道から九州まで12の拠点が稼働するまでになっている。

2022.10.12(水)
文=山内宏泰