波瀾万丈の経緯は、坪内さんをモデルとしたテレビドラマと、その原作となった坪内さんの新著で、さらに詳しく描写されていくこととなるが、ざっと振り返っただけでも「これだけ降りかかる難題を、よくぞ続々と乗り切ってきたもの……」と驚いてしまう。

 突き進む原動力はいったいどこに? 坪内知佳さんご本人に問えば、

坪内 人が好きで誰かに喜んでもらえれば単純に嬉しくなっちゃう。だから基本的には、周りの人がより豊かな気分で笑っていられる方向を目指してきただけです。

 と、あっさりしたもの。

 

 今回のドラマや書籍のタイトルには、「ファーストペンギン」という言葉が使われている。ファーストペンギンとは、集団で行動するペンギンのうち、最初に氷上の群れを飛び出て海水へ飛び込む一羽のこと。転じて、ベンチャー精神ある者のことを指すが、自身がファーストペンギンである自覚のほどは?

実績ゼロ・顧客ゼロ・反応ゼロのスタートでしたけれど…

坪内 たしかに私たちは実績ゼロ・顧客ゼロ・反応ゼロの状態から、思い切ってピョンと大海原へ飛び込んだので、ファーストペンギンだったとは言えるでしょうね。

 でも、私たちが特に勇敢だったとか、先見の明があったというわけでもないと思いますよ。流氷の上でたまたま崖っぷちに立っていて、何かの弾みで背中を押されて思いがけず飛んでしまったというのが、実際のところ。

 海に飛び込んでみたら意外にうまくいって、運よく注目してもらえたというだけじゃないですかね。

 飄々と大胆なことができてしまうのは、生まれついての性向ということになるだろうか。

坪内 それはあります、自分で決めたことは脇目もふらず突き進むので。それともうひとつ思い当たるのは、私の死生観が関係していますね。というのも私はいつも、頭のどこかで死を意識しているところがあるんですよ。これは以前に病気をしたときの経験がもとになっているんですけどね。

2022.10.12(水)
文=山内宏泰