人に弱い部分を見せない“小技”は身についた

――奈美は自分の弱さを認め、前に進もうとする女性でした。尾野さん自身は「自分の弱さ」を感じることはありますか?

 しょっちゅうありますよ。よく「緊張しないですよね」とか「肝がすわっている」みたいなことを言われるんですけど、内心は心臓バクバクだし、緊張しぃだし、実際、私は弱いんです。だけどそれを人に見せたくないから、表ではすごく笑ったり強い口調で言ってみたりしているだけなの。

――その弱さを埋めるものってどんなものでしょう。

 中々埋められないですよね。弱いところは何年経っても変わらないけど、人に弱い部分を見せないようにする“小技”は身についてきました。

 相手に自分の弱さを見せないことで不安が和らいだりするから、ちょっとバカなフリして笑わせたり――。そういう小技を覚えると自分の中の緊張が少し遅れてくるので、ギリギリまで平静を保てるんです。

――芯が強く、気風のいい女性を演じられることが多いので、つい尾野さんご自身もそういう方なのかと思っていました。

 よく、怖いもの知らずみたいに思われがちですけど、実際はすごい小心者なんですよ。以前、知り合いの人に手を見てもらったら「あなた、すごく緊張するタイプでしょう。よく女優やってるね」って言われたことがあるんです。そんな風に人から「よくやってるね」「頑張っているんだね」みたいなことを言われると「あぁ、分かってくれる人がいるんだ」って少しホッとします。

――では逆に、尾野さんにとっての「強い女性(人)」のイメージとは? 

 動じない、何でも知っている、戦える。あと、何でも立ち向かっていける人は強いなと思います。お芝居を見ていても「この人は物怖じしないな」ってすぐ分かるんです。そういう人を見ると「すごい」と思うし、それで私は余計に緊張してしまうんですけど(笑)、気付かれたくないから必死に平静を装っている。そういう意味でも、さっきお話しした“小技”のように自分で「私は弱くない」という気分にさせるのは一つの手だと思います。

――ご自身もそういった強さを持ちたいと思いますか。

 でも、ちょっと弱い方が守ってもらえるでしょう? 強い人って、できる自信が2%ぐらいしかなくても「できます!」って言っている気がするんですよ。私もそう言ってみたいけど、失敗したら恥ずかしいとか怖いとか、いろんな感情や弱さが出てきちゃうのよね。

 あざといかもしれないけど、私は積極的というよりはちょっと引いてみる方が向いてるかなと思っています。

――尾野さんにとっては「強さ」=失敗を恐れない、ということでしょうか。

 それはありますよね。私は心配性でもあるので、もし撮影の前日に飲みすぎて、次の日何か失敗したら「昨日飲んだからだ!」って思うし、そういうことで失敗をするのが怖いんです。なので、最近のナイトルーティンは「撮影がある前日は絶対お酒を飲まないこと」!

――失敗して嫌な思いをしないために準備しておく、という気持ちよく分かります。

 そんなことを言っておきながら、一人で旅するときは何も持たずに行くんですよ。どうやらそこでの失敗は失敗と思っていないらしくて(笑)。だけど、友達とどこかに行くときは失敗したくないし心配だから、友達の分まで薬とか持って行くんです。

――自分一人だったら失敗の責任も自分だけですものね。

 そう。一人だと何か足りないものがあっても「別に現地で買えばいいや」って思うんだけど、誰かと一緒だと「予定通りにいかないかもしれない、できないかもしれない」っていう いろんな「かもしれない」が増えて考えた結果、荷物がすごいことになっちゃうのよ。

2022.10.03(月)
文=根津香菜子
写真・佐藤 亘
ヘアメイク=黒田啓蔵(Iris)
スタイリスト=関口琴子(ブリュッケ)