東京での新しいガストロノミー・プロジェクト「MAZ」

 知らない土地の知らない素材を、ただ珍しいからと“つまみ食い”するのではなく、それを育む自然や人々に敬意を払いながら、丸ごと捉えようとするヴィルヒリオシェフ。そのフィロソフィーに貫かれた料理を東京で食べられるようになったというのですから、何ともいい時代です。ちなみに、店名の「MAZ」は、英語のmore(もっと)に相当する言葉。シェフのモットーに通じています。

「私にとって、日本という国もインスピレーションの源のひとつです。自然を尊重し、伝統や季節感を大切にし、多種多様な食材を用いる日本の文化にシンパシーを感じています。『MAZ』で使う素材の約20%はペルーから運んできたものですが、残りの多くは日本のもの。例えば野菜では、ペルーで使っている芋類とかなり近いものも見つけることができましたし、トマトはアンデス原産ですが、日本のトマトも、旬のものはとても美味しい。もちろん、ウニや貝類なども新鮮で素晴らしいものがありますね。こうした日本の優れた素材を使いながらも、高度ごとに、ペルー全体を表現するというコンセプトは変わりません。自分たちの視点、やり方に沿って料理をすることで、ペルーを表現しています」

 プレス向けの資料には、準備に2年以上の時間を費やしたとありますが、実際は、それ以上の年月をかけてきたとヴィルヒリオシェフは言います。

「食材の選別や、厨房、ダイニングのデザイン、スタッフの採用などについては、確かに(コロナ禍の影響もあり)2年ほどの時間をかけています。一方、このレストランは、私たちが2013年に設立した、ペルーの食材と原産地を知るための研究機関『Mater Iniciativa(マテル・イニシアティバ)』の知見を注ぎ込んだレストランです。そうした意味では、2年よりはるかに長い年月をかけたとも言えますね。『MAZ』で提供するかもしれない料理のなかには、7年ほど前に考えたものもあります。『Central』ではできなかったことが、日本の『MAZ』で実現できるかもしれないと、希望を抱いています」

 シェフのいう研究機関「Mater Iniciativa」では、いったいどのような目的で、どんな活動をしているのでしょう。次回中編では、その調査拠点でありレストランでもある、クスコの施設「MIL(ミル)」についても、ご紹介していきます。

MAZ(マス)

所在地 東京都千代田区紀尾井町1番3号 東京ガーデンテラス紀尾井町3F
電話番号 03-6272-8513
営業時間 17:00~23:00
定休日 火曜日
https://maztokyo.jp/

2022.07.14(木)
取材・文=伊藤由起
撮影=橋本 篤、平松市聖
コーディネイト=江藤詩文