「 勧誘されている人に“騙されないで”と説得するのは傲慢かなって…」作家・村田沙耶香が『信仰』で描いた“自分の世界を生きたい人”の愛しさ から続く

 村田沙耶香の最新短篇&エッセイ集『信仰』が刊行された。表題作「信仰」が2021年シャーリー・ジャクスン賞にノミネートされるなど、海外でもますます注目を集めている村田さん。私たちが疑いなく信じている「現実」を揺るがす8つの作品についてインタビューした。(全2回の2回目。前編から読む)

「統一されることの危機感」から出発して

「お前は『均一』から来たのか」

「だよ。そう。」

「あんなに薄気味悪い街に住んで、可哀そうに」

「アーーーーアーーーーー」

僕は驚いて「均一語」で叫んでしまった。均一が気持ち悪い? なぜ? ここのほうがずっと不気味なのに。

――「カルチャーショック」は「マンチェスター インターナショナル フェスティバル」のイベントのために書き下ろしたとありますが、どんなイベントだったのでしょうか?

村田 文学だけでなくアートや演劇、音楽などの国際芸術祭です。私は7カ国の作家による朗読と、パフォーマーによる英語翻訳を同時に聴くことができる「Studio Créole」という企画に参加しました。私の日本語の朗読と同時に、舞台の真ん中で女性のパフォーマーが一人芝居のように英語で朗読をしてくださって、面白かったです。

 

すべての価値がほぼ統一された「均一」に住む男の子の話

 妙に滞在期間が長いなと思っていたら、毎日通って朗読の練習をするんですね(笑)。その間にパレスチナの作家、アダニヤ・シブリさんと仲良くなったりして。アダニヤさんと去年ドイツで再会できたのはとても嬉しかったです。

――この作品では「均一」という街に住む少年が「カルチャーショック」という街の老婆に出会います。

村田 企画なさったアダム・サールウェルさんは、ご自身も小説家なのですが、自分が英語話者だからいろいろな言語の本が英語に翻訳されて読めてしまう、また他の言語を第一言語とする人とも当たり前のように英語で会話できてしまう、そのことに違和感があって考えた、とお聞きしました。なんとなくそのアダムさんのお話から想像が広がって、すべての価値がほぼ統一された「均一」に住む男の子の話になりました。

2022.06.17(金)
文=竹花帯子
撮影=佐藤 亘/文藝春秋