Kは驚いて立ち上がった。
――「最後の展覧会」は初出を知らずに読んだので、最初とても不思議な小説だなと……。
村田 本当ですよね(笑)。この小説はドイツの美術館で開催された展覧会の図録のために書きました。美術品のコレクターとして有名な松方幸次郎さんとカール・エルンスト・オストハウスさんの架空の出会いを書いてほしい、という依頼を頂戴したんです。
私は松方さんのこともそんなに詳しくは知らないし、カールさんにいたってはまったく知らなくて。それでもよいでしょうか、そして二人を宇宙人やロボットにする可能性がありますがよろしいでしょうか、と先方に質問したところ、「まさにそれこそ求めていたものです」と返事がきました(笑)。
本当かなと思いつつ、最終的に松方さんはロボットに、カールさんは宇宙人になりました。最初は調べて書かないといけないのかなと思ったのですが、心強い返事に安心して、結局自由に書きました。趣味に走った作品だという気がします。
――本作以外も、『信仰』に収録されている作品は海外からの依頼で書かれた作品が多くあります。執筆する上で何か違いは感じますか?
村田 ここに集められた作品は、テーマがはっきり決まっているものが多いという違いはあるかもしれないですね。とはいえ、どんな依頼を受けたときも、今作のように、最初はテーマに沿って書いていてもだんだん自由に書き進めることになるので、あまり自分としては感覚に違いはないんです。
――2016年に刊行された『コンビニ人間』はアメリカ版を皮切りに現在38の国と地域で翻訳され、続く2018年の『地球星人』も十数カ国で翻訳出版されています。
村田 近年はSNSの投稿に英語のコメントがつくこともあって、あたたかいお言葉がうれしいです。2018年に『コンビニ人間』が英語に翻訳され、イギリス、カナダ、アメリカの文学フェスティバルに呼んでもらったことをきっかけに、海外の読者の方が増えたのかなと感じています。7月には『生命式』がアメリカとイギリスで出る予定ですが、いつか、できれば現地で読者さんの感想をお聞きできるといいなあ、と楽しみにしています。
(撮影:佐藤亘/文藝春秋)
2022.06.17(金)
文=竹花帯子
撮影=佐藤 亘/文藝春秋