「え?」「なに?」聞き返してくる人も

 俳優やタレントとは初対面の場合が多い。まず自分の名前を名乗って挨拶する。その後で実際に撮り始めるのだが、撮り始めて少ししたところで、手を止めて次のように口にしてみる。

「あのう……唐突なんですが、セブン‐イレブンのコーヒーとファミリーマートのコーヒー、どっちが好きですか?」

 大抵の場合、相手は、

「はぁ?」

 と怪訝な顔をする。当然だ。それまで特にコーヒーの話なんかしていなかったからだ。そもそも初対面なので、私も目の前の方がコーヒー好きなのか、あるいは紅茶派なのかをまったく知らない。でも、そんなことにかまわず、

「ぼく思うんですけど、セブン‐イレブンのコーヒーの方が美味しい気がします……」

 と続ける。

 

「あ、そうなんですね」

 と返してくれる人もいる。

「私もセブン‐イレブンだと思います」

 と返してくれる人も稀にいる。「コーヒーはあまり好きではなく」と正直に言ってくれる人もいる。いったい何のことを話しているのかわからず、「え?」「なに?」と聞き返してくる人もいる。それに対して、私からも特に話の続きがあるわけではない。

「このカメラマン、大丈夫?」そう思われたらこっちのもの

 あるいは冬だと、

「セブン‐イレブンのおでんとファミリーマートのおでん、どっちがおいしいと思いますか?」と、同じく突然聞いてみる。

 反応はコーヒーのときより少しいい気がするが、やはり唐突感がありすぎて、大抵は、やはり「はぁ?」という反応であることが多い。なんか、この人、変じゃない? なんでこんなこと聞いてくるの? 間が悪くない? といった微妙な空気が流れるのがわかる。

 ただ、意外と思われるかもしれないが、こんな会話の後、相手からいい笑顔がこぼれることが多い。嘘だと思われそうだが本当だ。

「このカメラマン、大丈夫?」──相手にそう思われたらこっちのものだ。間が悪い、KY、あるいはマイペースすぎるとか、なんでもいいのだが、私はここで明らかに空回りしている。つまり、かなり恥ずかしい存在になっている。そんな空気ができあがる。すると不思議なことに、撮られる側は次第にリラックスしてくれるのだ。肩の力が抜けていくのが目に見えてわかる。それに、食べ物の話題は地雷を踏むことが少なく、ほどほどにプライベート感があっていい。天気の話題も悪くないが、あまりに当たり障りがなく、まったくプライベートに踏み込めないのであまりすることはない。

2022.06.12(日)
文=小林紀晴